第1部 第5章
サン・オブ・ザ・ヒーロー
村雨礼司 |
俺は……このままではダメだ。 |
---|---|
セクレト |
生徒の単独での特訓は奨励されていません。 焦っているのですか。 |
村雨礼司 |
そうかもしれない。クラスメイトの…… 特に、皆野の成長は驚異的だ。 |
村雨礼司 |
しかし俺は、あいつを守る存在でいる必要が…… む、誰だ? |
カニクラブ |
一人で特訓とは熱心ブクブク! しかし不用心と言わざるを得ないブク! |
村雨礼司 |
なぜこんなところに怪人が……!! |
名雲光 |
……ってことがあったみたいでさ。 札幌市内のアジトにイケメンが捕まってるのね。 |
皆野祐樹 |
村雨くんがさらわれた~!? |
---|---|
酉原剛 |
なにやってんだアイツ。 |
森沢江湖 |
それは大変だ!大事件ですぞ! |
森沢江湖 |
将来有望な若者をさらうとは……。 おのれ怪人、許すまじ! |
皆野祐樹 |
ど、どうしたの森沢さん? なんだかテンション上がってない? |
森沢江湖 |
最近、誘拐された人を助ける側が多いから ちょっと嬉しいの! |
森沢江湖 |
ほら、私、いつも誘拐される側だったから。 がんばって村雨くんを助けちゃうよ! |
皆野祐樹 |
ああ、なるほど……。 |
名雲光 |
エコちゃん、マジウケるわ~。 |
酉原剛 |
しかし、礼司も水臭いやつだぜ。 一人で隠れて特訓なんてよ。 |
酉原剛 |
どうして俺様を誘ってくれなかったんだ。 二人でやった方が効率いいだろ。 |
ウサタロー |
そういえば最近、酉原もよく特訓してるよな。 |
名雲光 |
あー、筋トレしてるとことか、よく見るわ。 |
酉原剛 |
おう、やってるぜ。 |
酉原剛 |
もっと強くなるって、ファルコンマスクと 約束したからな! |
森沢江湖 |
酉原くんは狙われたりしてないの? |
ウサタロー |
こいつの場合は大丈夫だろ。 いつも周り巻き込んで、多人数でやってるしな。 |
酉原剛 |
先輩に手合わせ願ったりな。 楽しいぜ、お前らも一緒にどうだ! |
名雲光 |
や……ウチは遠慮しとくわ。 |
酉原剛 |
礼司もよ、一人でこそこそせずに、 みんなで一緒にやりゃよかったんだよ。 |
皆野祐樹 |
一人でやるってあたり、村雨くんらしくはあるけどね。 |
森沢江湖 |
ところで、村雨くんがさらわれたのって、 いつの話なの? |
ウサタロー |
昨夜のことらしいぜ。 |
酉原剛 |
もう夜明けちまってるけど、 こんなところでのんびりしてていいのか? |
不動老師 |
無論、助けに行ってもらうとも。 君たちに集まってもらったのはそのためだ。 |
皆野祐樹 |
あ、学園長! |
不動老師 |
すまんな。もっと早く招集をかけたかったのだが、 村雨君が連れ去られた先を特定するのに手間取ってな。 |
皆野祐樹 |
そうか……森沢さんみたいに発信機もないもんな。 誘拐犯の居場所なんて、分からないのが普通だよね。 |
森沢江湖 |
むしろ一晩で分かっちゃうなんて、すごいよね。 |
不動老師 |
うむ、名雲君が特定してくれた。 |
名雲光 |
まぁね~♪ ウチの技術があれば、これくらい朝飯前っしょ。 |
酉原剛 |
ハッキングすげーな! |
ウサタロー |
場所が分かったんなら、やることは一つだけだ! |
ウサタロー |
さあみんな、転送装置に急げ! 敵のアジトに乗り込んで、村雨を助けだしてやるぞ! |
ウサタロー |
よし、入り口の手下どもは片付けたな! みんな急いで村雨を探すんだー! |
---|---|
森沢江湖 |
あ!あそこに倒れてるの村雨くんじゃない? |
村雨礼司 |
うぅ……。 |
名雲光 |
すぐに見つかったじゃん。ラッキー♪ |
皆野祐樹 |
村雨くん、大丈夫!? |
森沢江湖 |
怪我はないみたいだよ。 |
村雨礼司 |
お前ら……どうしてここに? |
酉原剛 |
どうしてって、理由なんか一つしかねーだろ。 礼司、お前を助けに来たんだぜ! |
村雨礼司 |
俺を助けに……? |
村雨礼司 |
……くそっ! |
名雲光 |
ヤバ。イケメンめっちゃ不機嫌だし。 |
酉原剛 |
気持ちはわかるぜ。 怪人に負けちまったんだ……悔しくないわけがねぇ。 |
酉原剛 |
だけどよ、落ち込むことはねーぜ礼司! 一度負けたなら、リベンジマッチを挑めばいいんだ! |
村雨礼司 |
うるさい、お前は黙ってろ。 |
酉原剛 |
なんだよ、つれねーな。 俺様も手伝うからよ!怪人にリベンジしようぜ! |
村雨礼司 |
うるさいと言っているんだ! |
セクレト |
あらやだ、ムラちゃんったら。 不機嫌だからって怒鳴っちゃダメよ。 |
セクレト |
んもぅ、せっかくのイケメンが台無しじゃない。 ほらムラちゃん、笑って笑って。 |
村雨礼司 |
ム、ムラちゃん……? |
村雨礼司 |
……おい、名雲。 |
名雲光 |
いや実際、顔怖すぎだし。 セクレトの言うとおり笑った方がいいっしょ。 |
村雨礼司 |
ふざけるな……! |
皆野祐樹 |
ま、まあまあ。落ち着こうよ村雨くん。 |
皆野祐樹 |
それより今はほら、アジトから脱出しないと。 |
酉原剛 |
え、逃げるのか? |
セクレト |
いやだわ、トリちゃんったら。 学園長のお話聞いてなかったの~? |
セクレト |
今回の目的は、あくまでムラちゃんを助けることよ。 目的は達したんだから、早く帰りましょ? |
酉原剛 |
いや、だってここ怪人のアジトなんだろ? |
酉原剛 |
だったらついでに倒していこうぜ! |
セクレト |
んもぅ、わがまま言わないのトリちゃん。 あんまりアタシを困らせないでちょうだい! |
酉原剛 |
お、おう。 |
皆野祐樹 |
なんかセクレトの喋り方、緊張感に欠けるなぁ。 |
名雲光 |
イヒヒ、だからいいんじゃん。 |
森沢江湖 |
ねえ、向こうから足音が聞こえてくるよ。 |
セクレト |
やだわ!手下が来ちゃったみたい。 |
セクレト |
もうちょっと待ってくれたっていいじゃない。 せっかちな男は嫌われるわよ! |
皆野祐樹 |
だったら、倒さないとだよね。 早く片付けて、アジトを脱出しなくちゃ! |
ウサタロー |
今のうちにズラかるぞー! 全員、走れ走れー! |
---|---|
皆野祐樹 |
村雨くん、走れる? |
村雨礼司 |
俺にかまうな! 自分の面倒くらい自分で見られる! |
ウサタロー |
そこ、言い争ってるヒマがあったら走れー! |
名雲光 |
急かすなっつの。 |
森沢江湖 |
ねえ、どっちから来たんだっけ? |
皆野祐樹 |
こっちだよ!ついてきて! |
セクレト |
みんな、頑張りなさ~い! アタシ、すっごく応援しちゃうんだから! |
皆野祐樹 |
気が抜けるなぁ~。 |
セクレト |
んもぅミナちゃん、真面目に走らないとダメでしょ! |
セクレト |
あ、ほら、出口が見えてきたわよ! |
ウサタロー |
んじゃさっさと脱出しようぜ! |
皆野祐樹 |
……あれ? |
ウサタロー |
どうした皆野、さっさとドア開けろよ! |
皆野祐樹 |
このドア、開かないよ!? |
名雲光 |
んなわけないっしょ、ここから入ってきたのに。 ……あ、マジ開かないわ。 |
森沢江湖 |
えーっ!鍵かかっちゃってるの? |
酉原剛 |
だったらそんなもん、壊しちまえばいいだろ! |
森沢江湖 |
人の家を壊しちゃっていいのかな? |
酉原剛 |
怪人のアジトに、気遣いなんか無用だぜ! うおりゃー! |
ウサタロー |
ダメだ! このドア、酉原の怪力でもビクともしねぇぞ! |
酉原剛 |
どうなってんだ!? |
村雨礼司 |
……どけ。 俺のウォーターシュートで、ドアを撃ち破る。 |
ウサタロー |
頼んだぜ、村雨! |
村雨礼司 |
行け! |
名雲光 |
はい無傷。そんな気してたわ、マジウケる。 |
村雨礼司 |
俺の全力が……傷一つつけられないだと……? |
ウサタロー |
名雲ー!次はお前の番だー! |
名雲光 |
いや、やってもいいけどさ。無駄じゃね? |
ウサタロー |
どーしてやる前から諦めんだよー! やれよ名雲!お前ならできるって! |
名雲光 |
だってこれ、対超人合金でしょ。 |
セクレト |
あらヤダ、本当。 |
皆野祐樹 |
対超人合金ってなに? |
セクレト |
そのまんまの意味よ。 超人能力者でも壊せない、すっごく硬い合金のこと。 |
名雲光 |
主に防犯目的で開発されたものらしいけどね。 例えば、銀行が強盗対策に使ったりとか。 |
酉原剛 |
なんでそんなものが、怪人のアジトにあるんだよ! |
名雲光 |
そんなのウチに聞かれても困るし。 っていうか今は他に気にすることあるっしょ? |
森沢江湖 |
ここから出るの無理そうだし、他の出口探したほうが よくない? |
皆野祐樹 |
うん、そうだね。 |
セクレト |
出口も大切だけれど、気を取られすぎちゃダメよ。 ほら、また手下が来てるわ。 |
ウサタロー |
取り囲まれたら厄介だ! みんな、立ち回りに注意しろよ! |
カニクラブ |
ブクブクブク! |
---|---|
皆野祐樹 |
え、スピーカーからなにか聞こえてきたよ? |
カニクラブ |
ご苦労ブク。間抜けなヒーロー諸君! |
村雨礼司 |
!この声は! |
酉原剛 |
間抜けとはなんだ! どこのどいつだ、姿を見せやがれ! |
森沢江湖 |
みんな、あそこのモニター見て! |
カニクラブ |
俺の名は、カニクラブ! 我がアジトへ、よく来たブク! |
酉原剛 |
お前がここの怪人か! 待ってろよ、今すぐぶっ倒しに行ってやるからな! |
カニクラブ |
ブクク、はたして間抜けなヒーローどもに、 俺のところまで来ることができるブク? |
酉原剛 |
俺様に不可能はない! 首を洗って待っていやがれ! |
皆野祐樹 |
待ってってば、酉原くん! なんかヤバいよ! |
酉原剛 |
ヤバいって、なにがだよ。 |
名雲光 |
ウチら多分、怪人の罠にはまったんだ。 |
酉原剛 |
罠だぁ? |
カニクラブ |
ブクク、多少は頭の回る間抜けもいるようブクね。 そう、お前たちは俺の罠にはまったんだブク! |
カニクラブ |
このアジト全体が、超人能力者を閉じ込めるための罠! お前たちはもう、ここから出ることはできないブク! |
皆野祐樹 |
あのドアは、そういうことだったのか! |
カニクラブ |
お前たちはストライカーというエサに釣られて、 自ら罠の中に飛び込んできたブク。 |
村雨礼司 |
俺がエサだと……? くっ、俺のせいでこいつらまで……! |
皆野祐樹 |
これは敵の言うとおり、僕たちが間抜けだったんだ。 村雨くんのせいじゃないよ! |
カニクラブ |
この短時間でここを特定したことには驚いたブクが、 その程度は想定済み。 |
カニクラブ |
最初から、まとめて捕まえてやるつもりだったブク! |
カニクラブ |
お前たちはすでに、袋のネズミ。 あとは時間をかけて、じっくりいたぶってやるブク! |
ウサタロー |
お前の思い通りになんかさせないぜ! |
カニクラブ |
ブククク!せいぜい足掻くがいいブク! |
酉原剛 |
なんてこった。俺様たち罠にはまってたのか。 |
森沢江湖 |
うぅ、助ける側だと思って張り切ってたのに、 あっという間に助けられる側になっちゃった……。 |
皆野祐樹 |
とにかく、他の出口を探してみよう。 |
森沢江湖 |
そんなのあるのかな? 私たち、もう閉じ込められたんでしょ? |
皆野祐樹 |
怪人がそう言ってただけだよ。 僕たちを騙そうとしてるのかもしれない。 |
酉原剛 |
そうだな、怪人の言葉を真に受ける必要なんかねぇ。 探してみようぜ、他の出口。 |
名雲光 |
ま、それしかないっしょ。 |
皆野祐樹 |
それじゃみんな、行こう。 |
村雨礼司 |
……。 |
名雲光 |
おーい、なにしてんのイケメン。行くよ? |
村雨礼司 |
……わかった。 |
皆野祐樹 |
出口がまだわからないなあ。 |
---|---|
村雨礼司 |
余計なことをするからだ。 俺は一人でも脱出できた。 |
森沢江湖 |
ホントに? |
村雨礼司 |
……。 |
ウサタロー |
ま、そうだとしても、だ。 仲間を思う心はだれにも止められないんだぜ! |
酉原剛 |
いいこと言うじゃねーか! |
皆野祐樹 |
そんな感じかなあ。 |
村雨礼司 |
自分が情けない……。 |
森沢江湖 |
もー、ここで言うのは そういうことじゃないでしょ? |
村雨礼司 |
じゃあ、なんだよ。 |
森沢江湖 |
いい子じゃないので教えてあげませ~ん。 |
名雲光 |
イケメン、いい子にしなよ。 |
村雨礼司 |
なんなんだ、お前らは! |
酉原剛 |
それにしても広いアジトだな、ここ。 |
---|---|
名雲光 |
廃工場をリフォームしたっぽい? |
酉原剛 |
お、廃工場か。 いかにも悪の怪人のアジトって感じがするな! |
森沢江湖 |
うんうん、定番だよね! 私もよく廃工場に閉じ込められてたなぁ。 |
名雲光 |
さすがエコちゃんだわ。マジヤバい。 |
酉原剛 |
廃工場で戦うヒーローと怪人! そういうシーンにすげー憧れてたもんだぜ。 |
皆野祐樹 |
ヒーロー番組とかでも、よく見る場面だよね。 |
森沢江湖 |
知ってる廃工場とか出てくると、ワクワクするよね! |
名雲光 |
しないしない。 |
皆野祐樹 |
テレビに、知ってる廃工場が出てくるんだ……。 |
森沢江湖 |
けっこう出てくるよ。 |
酉原剛 |
もしかして江湖って、廃工場に超詳しいんじゃねーか? |
森沢江湖 |
フフフ。私ほどいろんな廃工場を見てきた女の子は、 多分いないんじゃないかな。 |
ウサタロー |
そりゃいないだろーな。 |
酉原剛 |
すげーな! なあ、今度オススメの廃工場教えてくれよ! |
森沢江湖 |
よかろう、エンゲルマスク君。 この私が厳選した廃工場ベスト3を、君に教えよう。 |
ウサタロー |
廃工場に良し悪しなんてあるのか? |
皆野祐樹 |
よくわかんないけど、どんな基準で選んでるのかは、 ちょっと気になるかも? |
村雨礼司 |
……お前たち、いい加減にしないか。 |
名雲光 |
どした、イケメン。また怖い顔してるよ? |
村雨礼司 |
いつまで下らない話をしている! 今がどういう状況か、分かっているのか! |
皆野祐樹 |
そ、それはもちろん分かってるよ。 早く出口を探さないとダメだよね。 |
皆野祐樹 |
でも、なかなか見つからないし……。 |
村雨礼司 |
いつ敵が現れるか分からないんだぞ。 もう少し緊張感を持て! |
森沢江湖 |
そうだよね!ごめんね村雨くん! |
名雲光 |
いちいち謝ることないって。 それくらい、ウチらだってよく分かってるし。 |
酉原剛 |
そうだぜ、あんまうるさいこと言うなよ。 |
村雨礼司 |
くそっ……やはりこいつらは頼りにならん。 自分で何とかしなければ……。 |
酉原剛 |
おいおい、言ってくれるじゃねーか! |
セクレト |
ちょっとちょーっと! やーねぇもう、ケンカしてる場合じゃないでしょ? |
ウサタロー |
まったくだぜ。一回冷静になれよ、村雨。 |
村雨礼司 |
俺は冷静だ! |
森沢江湖 |
そうは見えないけど。 |
セクレト |
やめなさいってば! ほら、ちゃんと周り見なさい!敵が来てるわよ! |
名雲光 |
あーもう、マジ疲れたんですけど。 |
---|---|
森沢江湖 |
うん、私も疲れちゃった……。 |
酉原剛 |
んじゃ、休憩だな。俺様も腹が減ってきたぜ。 |
村雨礼司 |
こんな状況で、のん気すぎないか? |
皆野祐樹 |
でも、疲れてたらいざというとき大変だし。 村雨くんも休まない? |
村雨礼司 |
フン……好きにしろ。 |
ウサタロー |
それじゃ休憩だ! オイラが見張っててやるから、お前らはしっかり休め! |
皆野祐樹 |
ありがとう、ウサタロー。 |
名雲光 |
にしてもさ、闇雲に歩くの辛すぎね? |
皆野祐樹 |
だね。地下とか二階もあるみたいだし。 ……もっと上の階、下の階がある可能性も。 |
名雲光 |
ちょ、やめてよ。考えるだけで疲れるし。 |
森沢江湖 |
確かに建物の大きさは知っておきたいよね。 見取り図とか、ないのかな? |
皆野祐樹 |
それはもちろん、あると助かるけど……。 |
酉原剛 |
光の能力でどうにかなんねーのか? |
名雲光 |
ハッキングで見取り図探せって言ってんの? |
酉原剛 |
おう、それだ。 |
名雲光 |
いや、無理だし。 ていうかもう調べてみたんだよね。 |
名雲光 |
したら、この工場所有してた企業、もう倒産してんの。 超ウケるわ。 |
皆野祐樹 |
だから廃工場になってるわけだもんね。 |
名雲光 |
この工場のことで分かったのは、そんだけ。 見取り図とか、夢見すぎっしょ。 |
名雲光 |
前にも言ったけど、そこまで便利な能力じゃないから。 |
酉原剛 |
それしか分からなかったのか? |
名雲光 |
そーだけど。文句ある? |
酉原剛 |
礼司が連れてかれた場所がここだってのは、 どうやって調べたんだ? |
皆野祐樹 |
あ、そういえば! |
村雨礼司 |
確かに、妙だ。 キューバーンのときは探せないと言っていたはずだ。 |
セクレト |
あら、面白そうな話してるじゃな~い? アタシも気になっちゃうわね。 |
名雲光 |
んー、それはほら。乙女の秘密ってことで。 |
セクレト |
あら~、またそれなの~? |
村雨礼司 |
フン……どうせ人には言えないような、 ロクでもない手段を使ったんだろう? |
名雲光 |
は?ちげーし。 |
村雨礼司 |
どうだかな。 やましいことがあるから、秘密にしたいんだろ。 |
名雲光 |
違うっつーの! |
森沢江湖 |
ちょっと村雨くん、そんな言い方ないでしょ! |
森沢江湖 |
光ちゃんが秘密にしてる理由、本当に分からないの? |
村雨礼司 |
知るものか。 |
森沢江湖 |
村雨くんが、いい子にならないからだよ! |
村雨礼司 |
なっ……またそれか! |
名雲光 |
あ~、そうそう。そうなんよね。 イケメンがいい子になったら教えるわ。 |
村雨礼司 |
ウソをつけ! |
ウサタロー |
おい、話はそこまでにしておけ! 敵が現れたぞ! |
村雨礼司 |
くそっ……どいつもこいつも! |
皆野祐樹 |
ふー、今回もなんとか勝てたぞ。 |
---|---|
ウサタロー |
前と比べると、だいぶヒーローっぽい戦い方が できるようになってきたんじゃねーか? |
皆野祐樹 |
え、本当に? えへへ、毎日頑張ってる成果が出てきたかな。 |
森沢江湖 |
うん、祐樹くんすっごく頼りになるよ。 |
皆野祐樹 |
そうかな、えへへ。 |
名雲光 |
最初の頃と比べると、ヤバいよねマジで。 |
酉原剛 |
能力も使いこなせるようになってきたしな。 だが、筋肉が全然足りてないぞ! |
皆野祐樹 |
筋肉で酉原くんに勝てるわけないでしょ!? |
酉原剛 |
もっと肉食った方がいいと思うぜ。 |
皆野祐樹 |
ちゃんと食べてるってば。 ほら、筋肉だって前と比べればさ! |
村雨礼司 |
……確かに前と比べれば、皆野は強くなった。 |
皆野祐樹 |
あ、村雨くんもやっぱりそう思う? |
村雨礼司 |
だが、それはあくまでも、前と比べれば、だ。 |
村雨礼司 |
俺に言わせれば、皆野はまだまだ力不足だ! |
皆野祐樹 |
うっ……。 |
村雨礼司 |
自分の能力くらい、完全に使いこなしてみせろ。 |
村雨礼司 |
戦い方だって危なっかしくて稚拙だ。 あれじゃいつやられてもおかしくない。 |
ウサタロー |
いや、皆野は頑張ってるぜ。 そんなに厳しく言わなくてもよ……。 |
村雨礼司 |
怪人との戦いは、命懸けなんだぞ! |
村雨礼司 |
皆野の命だけじゃない。 俺たちチームメイト全員の命がかかってるんだ! |
名雲光 |
そこはフォローしあえばよくね? |
村雨礼司 |
それでも限界はある。 |
村雨礼司 |
一人のミスで、チーム全員がやられることもあるんだ。 |
村雨礼司 |
いつまでも無謀な戦い方をするな。 迷惑なんだよ。 |
皆野祐樹 |
ご、ごめん……。 |
セクレト |
ちょっとやめてよ~。 今日のムラちゃん、どうしちゃったわけぇ? |
村雨礼司 |
別に……俺はいつも通りだ。 |
森沢江湖 |
いつもの村雨くんは、もっといい子だよ! |
村雨礼司 |
ふざけるな。 |
ウサタロー |
皆野、こいつの言うことなんか気にするなよ。 お前は着実にヒーローへの道を歩んでいってるぜ! |
皆野祐樹 |
う、うん……。 |
ウサタロー |
オイラの見立てじゃ、皆野の実力は村雨にだって 引けを取ってねぇ。 |
村雨礼司 |
なっ……! |
皆野祐樹 |
それはさすがに言い過ぎだよ。 |
ウサタロー |
そうかもな。 |
ウサタロー |
でもそれくらい、オイラは高く評価してんだ! だからもっと自信持てよ、皆野! |
皆野祐樹 |
はは、ありがと……。 |
村雨礼司 |
……。 |
名雲光 |
ありゃ、イケメンが落ち込んでる。 らしくなくない? |
村雨礼司 |
……そうだな。そうかもしれん……。 |
セクレト |
みんな、ちょっとい~い? お取込み中のところ悪いんだけど、お客さんよ~? |
森沢江湖 |
ねえ、見て見て。あそこにドアがあるよ! |
---|---|
酉原剛 |
よっしゃ、今度こそ脱出だぜ! |
名雲光 |
どうせまた開かないって。 |
酉原剛 |
いや!今度こそ開く!俺様が開けてみせる! |
名雲光 |
前向きすぎてウケる。 |
酉原剛 |
ぐあー!ダメだ、開かねー! |
森沢江湖 |
やっぱりそうだよね~。 |
皆野祐樹 |
……あれ? ねえ、なんかこの辺、見覚えない? |
ウサタロー |
そうか? さっきから似たようなとこ歩き続けてるからなぁ。 |
皆野祐樹 |
そうなんだけどさ。 |
村雨礼司 |
ここは、お前たちが入ってきたドアだ。 ……どうやらアジトの中を一周してきたようだな。 |
名雲光 |
うわ、マジだわ!テンション下がるんですけど! |
森沢江湖 |
私たち、本当に閉じ込められちゃったの!? これからどうしよう! |
酉原剛 |
やっぱ、このドアぶっ壊すしかねーだろ! 俺様の本気を見せてやるぅぅぅぅぅ! |
村雨礼司 |
やめておけ、酉原。 |
酉原剛 |
なんだよ、止めるなよ! |
村雨礼司 |
別に止めるつもりはない。 どうしてもやりたければ、やればいいさ。 |
村雨礼司 |
だが、やるだけ無駄だぞ。 |
村雨礼司 |
このドアがヒーローを閉じ込めるためのものなら、 そんな簡単に壊せるはずがない。 |
酉原剛 |
そんなの、やってみなくちゃ分からねーぜ! |
ウサタロー |
いや、もう十分試しただろ。 |
セクレト |
そうよ~、ムラちゃんの言うとおりだわ。 これ以上パワーを無駄遣いしちゃダメよ。 |
酉原剛 |
だったら、これからどうするんだよ? |
村雨礼司 |
……カニクラブを倒しに行く。 |
皆野祐樹 |
ええっ!?それこそやめた方がいいよ! |
村雨礼司 |
心配するな。 同じ相手に二度も後れを取るつもりはない。 |
皆野祐樹 |
それ、なんの根拠もないよね!? |
村雨礼司 |
根拠があろうがなかろうが、 俺は怪人に勝たなくてはいけないんだ。 |
村雨礼司 |
カニクラブに勝てるか不安だと言うなら、 ここで待っていろ。 |
村雨礼司 |
カニクラブは、俺一人で倒してみせる! |
皆野祐樹 |
いやいやいや、村雨くん一人で行かせる方が不安だよ! |
酉原剛 |
一人じゃねーぜ! なぜなら、この俺様がついていくからだ! |
皆野祐樹 |
酉原くーん! |
村雨礼司 |
フン、好きにしろ。 |
酉原剛 |
そうさせてもらうぜ。 元より、怪人から逃げる気なんかねーんだ! |
皆野祐樹 |
ちょっと待ってよ、二人とも! |
名雲光 |
うわー、どーすんのこれ? |
森沢江湖 |
放ってはおけないよ。私もついていくね。 |
ウサタロー |
そうだな。 今ここで二手に分かれるのは悪手だ。 |
皆野祐樹 |
うう、仕方ない。みんな行こう! |
酉原剛 |
そういやよお、なんで礼司は一人で特訓してたんだ? |
---|---|
村雨礼司 |
仲間を守るため、強くあらねばならないからだ。 |
酉原剛 |
わかる! |
村雨礼司 |
補足するならば、お前たちは強くなっている。 俺は、それに見合う強さを求めただけだ。 |
村雨礼司 |
問題はあるにせよ、お前たちは善人だ。 俺は善人を守る。父のように失敗はしない。 |
皆野祐樹 |
それって……。 |
村雨礼司 |
……しゃべり過ぎた。 |
名雲光 |
お父さんって「ケアテイカー」でしょ? |
セクレト |
そうよ~。 15年前に亡くなった伝説のヒーローよ。 |
村雨礼司 |
うるさいぞ。進め。 |
酉原剛 |
おいおい、その話はマジなのかよ礼司! |
---|---|
村雨礼司 |
だったらどうした。 |
酉原剛 |
サインくれ! |
村雨礼司 |
……あのな。 俺のサインをもらってどうするんだ。 |
酉原剛 |
飾る! |
村雨礼司 |
馬鹿も休み休み言え。 |
皆野祐樹 |
それにしても驚いたなぁ。 村雨くんが、あのケアテイカーの息子だなんて。 |
ウサタロー |
倒した怪人は数知れず。救った命も数知れず。 |
ウサタロー |
世代交代が早いヒーロー業界じゃ、 5年で忘れられるなんてことも珍しくない。 |
ウサタロー |
そんな中で、15年経っても忘れられることなく、 人々の尊敬と憧れを集め続ける伝説の男。 |
ウサタロー |
ヒーロー・オブ・ヒーロー、それがケアテイカーだ。 |
森沢江湖 |
ね!何度も映画やドラマにもなってる、 伝説のヒーローだよ!? |
森沢江湖 |
「生憎と、俺はお節介でね!」 |
皆野祐樹 |
あ、それ、ケアテイカーのキメ台詞! |
森沢江湖 |
そうそう。小さいとき、良く真似してたんだ! |
酉原剛 |
ケアテイカーごっこ……俺様もよくやったもんだぜ。 |
名雲光 |
そうなん?ファルコンマスクはどしたん? |
酉原剛 |
もちろん、俺様の心の師はファルコンマスクだが、 ケアテイカーだけは別だ。 |
皆野祐樹 |
うん、分かるなーその感覚。 |
森沢江湖 |
あと、親にあれ言われたことない? |
森沢江湖 |
「ケアテイカーみたいな立派なヒーローになりなさい」 ってさ。 |
名雲光 |
言われた。超言われたわ。 |
皆野祐樹 |
僕らの親って、ケアテイカーと同世代だからね。 |
村雨礼司 |
……立派なものか。 |
酉原剛 |
ん、なにか言ったか? |
村雨礼司 |
なんでもない。 |
セクレト |
学園長も、常日頃から話しています。 ケアテイカーこそが、ヒーローのあるべき姿であると。 |
ウサタロー |
学園の教科書にも載ってるしな! |
ウサタロー |
今更言われるまでもないと思うが、 みんな、ケアテイカーをしっかり見習えよ! |
皆野祐樹 |
もちろんだよ! |
村雨礼司 |
……フン。 |
森沢江湖 |
なんかさっきから、村雨くんの機嫌悪いね? |
村雨礼司 |
俺のことは気にするな。 |
ウサタロー |
父親の話されて、照れくさいんじゃないか? |
村雨礼司 |
ケアテイカーの話なんて、そこら中で耳にするんだ。 今更聞かされたところで何とも思わん。 |
ウサタロー |
それはそうか。 |
村雨礼司 |
おい、それより敵の姿を見つけたぞ。 |
村雨礼司 |
今度はこちらから仕掛ける。 やつらから、カニクラブの居場所を聞き出すんだ! |
皆野祐樹 |
情報は何も聞き出せず、か。 さすがに簡単にはいかないね。 |
---|---|
村雨礼司 |
だが、配置していた手下がやられたとあれば、 敵側にもなにか動きはあるはずだ。 |
村雨礼司 |
敵の動きを探ってみよう。 |
皆野祐樹 |
そうだね。 |
酉原剛 |
なあ、礼司よ~。 ケアテイカーの話、聞かせてくれよ。 |
村雨礼司 |
断る。 |
酉原剛 |
なんでもいいんだって! |
皆野祐樹 |
無理に聞かないほうがいいよ、酉原くん。 村雨くんも断ってるんだしさ。 |
酉原剛 |
でもよ、気になるだろ? テレビじゃやらないヒーローの素顔的なやつさ。 |
皆野祐樹 |
あーうん、それはすっごい気になる。 |
酉原剛 |
だろ?だから礼司に聞こうぜ! こんなチャンス、滅多にねーって! |
皆野祐樹 |
や、でもね、酉原くん……。 |
酉原剛 |
頼む、教えてくれ! |
村雨礼司 |
期待させているようで悪いが、 俺から話せることなんて一つもないぞ。 |
酉原剛 |
ないはずないだろ、家族なんだからよ! |
村雨礼司 |
……。 |
名雲光 |
まーまー。そのへんにしときなってトリ頭。 |
名雲光 |
イケメンが言ってること、多分マジだし。 |
酉原剛 |
あー? |
森沢江湖 |
ほら、ケアテイカーが亡くなったのって、何年前? |
酉原剛 |
何年って、そりゃ15年前……ああっ! |
皆野祐樹 |
うん。 村雨くんはその頃、まだ赤ちゃんだよね。 |
村雨礼司 |
そういうことだ。 |
村雨礼司 |
俺は父の顔も覚えていないんだ。 ……テレビや写真で見てるから、知ってはいるがな。 |
酉原剛 |
お、おう、悪かった。 |
村雨礼司 |
別にかまわないさ。 |
村雨礼司 |
俺に、父との記憶はない。 |
村雨礼司 |
知っているのは、メディア上のケアテイカーの姿。 熱心に見ていた分、俺よりお前らの方が詳しいだろう。 |
村雨礼司 |
……だが、そうだな。 |
村雨礼司 |
もし、なにか話すことがあるとすれば、 ケアテイカーが俺の目標だったことは、確かだろう。 |
森沢江湖 |
偉大なお父さんだもんね。 |
村雨礼司 |
……偉大だとは、思っていないさ。 |
村雨礼司 |
俺にとってケアテイカーは、 超えなければならない存在だ。 |
村雨礼司 |
俺は奴より、強くならなければいけない。 |
ウサタロー |
お前……? |
酉原剛 |
俺様も、ファルコンマスクを超えたいとは思ってるが、 お前のは……なんか違う感じがするな。 |
村雨礼司 |
違うだろうとも。 |
セクレト |
や~ね、ムラちゃんたら。怖い顔してるわよ! |
セクレト |
お喋りは一回やめてちょ~だい! ほら、お客さんがいらっしゃったわよ! |
皆野祐樹 |
今の敵、この廊下の奥から出てきたよね? |
---|---|
ウサタロー |
だったら、辿ってみようぜ! 手下がどこから出てくるか、わかるかもしれねー! |
村雨礼司 |
上手くいけば、カニクラブのもとまで 案内してもらえるかもな。 |
森沢江湖 |
ところで、村雨くんがケアテイカーの子供だって、 みんな知ってるの? |
ウサタロー |
いや、知らないはずだぜ。 |
森沢江湖 |
それじゃ光ちゃんは、どうやって知ったの? |
名雲光 |
ま、ちょこっとね。乙女の秘密的な。 |
ウサタロー |
要するに学園のデータベースをハッキングしたんだな。 |
名雲光 |
イヒヒ。 |
ウサタロー |
言っとくが、このことは絶対に口外するなよ! |
名雲光 |
わかってるって。 |
皆野祐樹 |
ウサタローは知ってたの? |
ウサタロー |
オイラの役割は生徒のサポートだからな。 学園長から聞かされてたぜ。 |
森沢江湖 |
でも、なんで他の人に教えちゃいけないの? |
ウサタロー |
ケアテイカーは、かつてヒーロー界の象徴とまで 呼ばれた伝説のヒーローだ。 |
ウサタロー |
村雨がケアテイカーの息子だと知られれば、 まず間違いなく騒ぎが起こる。 |
皆野祐樹 |
確かに、そうかも。 |
ウサタロー |
酉原くらいの反応ならまだ可愛いもんだがな。 世の中には、ケアテイカーに恨みを持つ元怪人もいる。 |
ウサタロー |
元怪人が復讐でも企てたら、大変だろ? |
森沢江湖 |
騒ぎどころか、大事件が起きちゃうね、それ! |
ウサタロー |
だから秘密にしてたんだ。 本人もそれを望んでいたしな。 |
村雨礼司 |
俺にとっては、ただ面倒なだけだからな。 |
皆野祐樹 |
そんな言い方……。 |
名雲光 |
まー実際、有名なヒーローは多くても、 素性まで分かってる人ってほとんどいないよね。 |
ウサタロー |
正体を隠して活躍するのが、ヒーローの基本だからな。 |
名雲光 |
伝説のヒーローの素性……。 これ、マスコミに持ち込んだら高く売れるんじゃね? |
ウサタロー |
名雲ー! |
名雲光 |
冗談だって~。 |
ウサタロー |
冗談でもやめろよなー! |
村雨礼司 |
……名雲。 |
名雲光 |
ん、やだなー。イケメンまで本気にしちゃった? |
村雨礼司 |
母に迷惑をかけたくないんだ。 |
名雲光 |
あ、うん。悪ふざけして本当ゴメン! |
村雨礼司 |
母は、女手一つで俺を育ててくれた。 きっといろいろな苦労もさせてきたはずだ。 |
村雨礼司 |
……俺が母を不幸にするわけにはいかないんだ。 父のようにはな。 |
森沢江湖 |
ケアテイカーが、家族を不幸に……? |
酉原剛 |
そんな悪いやつだったのか!? |
皆野祐樹 |
テ、テレビで見る限り、そんな人じゃなかったけど。 |
名雲光 |
映画やドラマも、しょせんは創作物だからねー。 |
村雨礼司 |
おい、無駄話はよせ。また敵が来たぞ。 |
森沢江湖 |
ねえ、みんな見て! こっちに階段があるよ! |
---|---|
皆野祐樹 |
手下が出てきたところだね。 |
村雨礼司 |
下り階段か。 どうやらカニクラブは、地下にいるようだな。 |
酉原剛 |
そうとわかれば、行くしかねーだろ! |
名雲光 |
うぇー、ここ降りんの? |
名雲光 |
この階段、錆だらけなんですけど。 降りてる途中で崩れたら、マジヤバいんですけど。 |
皆野祐樹 |
怪人が使ってるんだし、大丈夫なんじゃないかな? |
村雨礼司 |
気になるなら、後から来い。 俺から先に降りよう。 |
森沢江湖 |
あ、怪我には気を付けてね。 錆びてるところって、けっこう危ないから。 |
村雨礼司 |
言われるまでもない。 |
酉原剛 |
んじゃ、次は俺様が行くぜ。 |
名雲光 |
待った!トリ頭は最後だかんね! |
酉原剛 |
なんでだよ。 |
名雲光 |
一番重いからに決まってるっしょ! |
酉原剛 |
あー、体重順か? それならそれでいいぜ。 |
酉原剛 |
んじゃ、軽いやつから行けよ。 |
森沢江湖 |
……! |
名雲光 |
……! |
皆野祐樹 |
や、ほら。 別に順番とかどうでもいいんじゃないかな? |
森沢江湖 |
うん。それじゃ私から……。 |
名雲光 |
ちょい待ち、エコちゃん! ウチが先に降りるし。 |
森沢江湖 |
な、なんでムキになってるのかな、光ちゃん? もしかして体重順、意識しちゃってる? |
名雲光 |
エコちゃんこそどーしたん?冷や汗かいてね? |
森沢江湖 |
うふふ。 |
名雲光 |
あははは。 |
皆野祐樹 |
二人とも、目が笑ってないよ……。 |
村雨礼司 |
おい、階段に問題はない。 重かろうが平気だから、さっさと降りてこい。 |
名雲光 |
あーもう!男子ども、マジデリカシーねーし! |
皆野祐樹 |
僕はなにも言ってないよ!? |
ウサタロー |
とにかく、用心していけよ。 この先になにがあるか、わからねーからな。 |
酉原剛 |
おう、そうだな。行こうぜ。 |
名雲光 |
こらトリ頭!先行くなっつの! |
酉原剛 |
重いやつでも大丈夫だって言ってたじゃねーか。 |
酉原剛 |
そんなことよりよー。 ケアテイカーが悪いやつだって話、本当なのか? |
酉原剛 |
俺様、そっちの方が気になって仕方ねーぜ。 |
ウサタロー |
そんなはずはねーぜ。 |
ウサタロー |
学園長が「ヒーローの模範」って呼んだ男なんだぞ。 悪いやつのわけがねぇ。 |
皆野祐樹 |
そうだよね。 欠点がないからこその模範なんだろうし。 |
村雨礼司 |
世の中に、完璧な人間なんていない。 |
村雨礼司 |
ケアテイカーにも欠点はあったさ。 ただ、世間がそれを欠点と認めなかっただけでな。 |
皆野祐樹 |
世間が認めなかった欠点……? |
ウサタロー |
おい、気をつけろ。奥から敵が来るぜー! |
皆野祐樹 |
村雨くん。 お父さんのことで、なにかこだわりがあるんだね。 |
---|---|
村雨礼司 |
父はお前のようなヒーローだった。 そう母から聞いた。 |
村雨礼司 |
悪人といえども決して殺さず、 人の心を信じていた。 |
ウサタロー |
立派な奴じゃないか! |
村雨礼司 |
だが愚かだ。 情けをかけた怪人に殺されたんだからな。 |
村雨礼司 |
だから俺は敵に情けはかけない。 圧倒的な強さで善を守り、悪を倒す者になる。 |
ウサタロー |
お前……。 |
村雨礼司 |
自分やお前たち程度も守れないようでは 俺の理想は満たせないんだよ! |
ウサタロー |
ケアテイカーほど、情け深いヒーローはいなかった。 どんな悪人でも、最後には許したって話だ。 |
---|---|
皆野祐樹 |
昔、ケアテイカーが怪人を助けるために奔走する っていう映画見たけど、あれも本当だったのかな? |
ウサタロー |
実際、そういうエピソードもあったみたいだぜ。 |
名雲光 |
怪人許したり助けたり、ケアテイカーヤバいわ。 |
ウサタロー |
まさに罪を憎んで人を憎まずってわけだ。 |
皆野祐樹 |
僕の場合はまあ……ただ気が弱いだけなんだけど。 |
森沢江湖 |
本当に気が弱い人は、怪人になにも言えないと思うよ? |
皆野祐樹 |
そうなのかな……うーん。 |
ウサタロー |
動機はなんであれ、なかなかできることじゃねーぜ。 ケアテイカーも皆野も、立派なヒーローだ。 |
村雨礼司 |
立派なものか。冗談はやめてくれ。 |
村雨礼司 |
ケアテイカーは、自分を殺した怪人すら許した、 なんていうエピソードもあるがな。 |
村雨礼司 |
そんなの、世間が都合よく解釈しただけのものだ。 |
村雨礼司 |
ケアテイカーは、隙を見せて怪人に殺された愚か者。 それが現実だ。 |
村雨礼司 |
悪人はしょせん悪人なんだ。 |
村雨礼司 |
そんな簡単に心変わりするような奴が、 犯罪などするものか! |
村雨礼司 |
そんなことも理解できずに殺されるなんて……。 |
ウサタロー |
誇らしくは思ってやれねーのか? お前の父親は立派だったって、みんな言うはずだぜ。 |
村雨礼司 |
世の中の人間がそう言うからこそだ。 俺は決して認めない。 |
村雨礼司 |
父を殺した怪人を憎む。 |
村雨礼司 |
家族を置いていった父を憎む。 |
村雨礼司 |
母から幸せを奪ったすべてのものが、俺の敵だ! |
皆野祐樹 |
村雨くん……。 |
村雨礼司 |
俺は、悪を絶対に許さない。 善人に害をなす存在は、排除されるべきだ! |
村雨礼司 |
それが俺の目指す、理想の世界だ。 |
村雨礼司 |
理想を実現させるためにも、俺はもっと強くなる。 ……ならなければいけない。 |
村雨礼司 |
カニクラブ如きに、負けていられるか! |
ウサタロー |
だけど村雨、今のお前はカニクラブより弱いんだ。 無茶はするべきじゃねぇぜ! |
村雨礼司 |
そうだ。今の俺は弱い。 だからこそ、奴に打ち勝って強くなるんだ! |
皆野祐樹 |
焦っちゃダメだよ、村雨くん! |
セクレト |
みんな、近くに敵の反応があるわ~。 気をつけなさい! |
村雨礼司 |
仲間に迷惑をかけているんだ……。 焦るに決まっている! |
酉原剛 |
お、なんだこの部屋。 モニタが大量に並んでるぜ? |
---|---|
ウサタロー |
よく分からん機械もたくさん並んでるな。 |
森沢江湖 |
映ってるのは、廃工場みたいだね。 監視カメラの映像かな? |
ウサタロー |
どうやら、警備室みたいな場所のようだな。 |
酉原剛 |
ここから俺様たちを監視してたわけか。 |
皆野祐樹 |
見た感じ、ここがアジトの心臓部みたいだけど、 カニクラブの姿がないね。 |
酉原剛 |
まさか、逃げやがったのか? |
皆野祐樹 |
そうだといいな! |
村雨礼司 |
いいわけあるか。 |
村雨礼司 |
ヒーローなら、悪はその場で排除するべきだ! |
皆野祐樹 |
そ、そうかな……。 説得すれば、中にはわかってくれる怪人もいるかも? |
村雨礼司 |
いない。怪人が心変わりなどするはずもない。 |
村雨礼司 |
皆野、その考えは改めろ。 |
村雨礼司 |
さもないと、お前もいつかケアテイカーと同じ末路を 辿ることになるぞ。 |
森沢江湖 |
祐樹くんも、怪人に殺されちゃうかもってこと? |
皆野祐樹 |
お、脅かさないでよ! |
村雨礼司 |
脅しなものか。 |
村雨礼司 |
それに、被害者が皆野だとは限らない。 |
村雨礼司 |
お前の逃がした怪人が、別の場所で罪を犯し、 別の誰かが犠牲になるかもしれないんだぞ。 |
皆野祐樹 |
それは……いやかな。 |
村雨礼司 |
だったら、甘い考えはいい加減に捨てることだ。 |
ウサタロー |
いいや、考えを改める必要はねーぞ! |
ウサタロー |
どんな理想を描くかは人それぞれだ。 他人に強制されたもんは理想なんかじゃねぇ! |
皆野祐樹 |
ウサタロー……。 |
ウサタロー |
もちろん村雨がどんな理想を描くかは、お前の自由だ。 だがそれを、他人に押し付けるのはやめろ。 |
村雨礼司 |
フン、別に強制するつもりはないさ。 ただの忠告だ。 |
村雨礼司 |
……それより、今はカニクラブを探す方が先だな。 |
村雨礼司 |
おい、監視カメラのどこかに映ってないのか? |
酉原剛 |
モニタには映ってないみてーだな。 |
名雲光 |
んー、仕方ない。ウチに任せな。 |
酉原剛 |
お、この機械操作できるのか? |
名雲光 |
ウチの能力なら、これくらい楽勝っしょ。 そこに管理端末あるしね。 |
名雲光 |
ポンキューちゃんを端末に侵入させて。 チャチャっと命じれば……と。 |
ウサタロー |
お、モニタの映像が切り替わった! |
名雲光 |
セキュリティも大したことないかな。 |
セクレト |
あら~、手下の皆さんがいらしたみたいよ~? 注意してねん。 |
名雲光 |
あー……端末壊しに来たのかも? |
名雲光 |
悪いけど、手下止めてくんない? カニクラブ探すの、もうちょいかかりそうだからさ。 |
酉原剛 |
おう、こっちは俺様に任せておけ! |
村雨礼司 |
どうだ、見つかったか? |
---|---|
名雲光 |
んー、まだ。 |
森沢江湖 |
ハッキングって、意外と時間かかるんだね。 |
名雲光 |
っていうかねぇ~……。 |
セクレト |
ちょっと、あなたたち! いつまでこんなところにいるつもり? |
セクレト |
もたもたしてたら、また手下が来ちゃうわよ! 早く移動しなさいな。 |
名雲光 |
ん~……。 |
酉原剛 |
おい、セクレトが急かしてるぞ。 |
名雲光 |
ていうか、ヤバいもん見つけちゃったんだよね~。 マジでちょっと待ってくんない? |
セクレト |
んもぅ、今は遊んでるヒマなんてないのよ? |
名雲光 |
イヒヒ。焦らない、焦らない。 |
皆野祐樹 |
それで、いったいなにを見つけたの? |
名雲光 |
外部との通信記録を見つけたんよね~。 |
村雨礼司 |
外部……? |
名雲光 |
多分これ、例の組織との通信だね。 |
皆野祐樹 |
例のって、怪人の組織のこと!? |
森沢江湖 |
それじゃ、カニクラブも組織の怪人なの? |
名雲光 |
そーゆーこと。 ほら、今回の計画についての記録も残ってる。 |
ウサタロー |
敵の用意がよすぎると思ったら、そういうことかよ。 計画を立てて指示した奴がいるんだな。 |
皆野祐樹 |
これ、村雨くんが単独行動してるってことまで 書いてあるよ! |
森沢江湖 |
一人で特訓してる時間と場所まで書いてあるね。 |
名雲光 |
あちゃ~、完全に狙われちゃってたわけね。 |
村雨礼司 |
どうやってそんなことまで……。 おい、この計画を指示した奴は誰なんだ? |
名雲光 |
それを探るのに、時間がかかってるわけ。 |
名雲光 |
ここのセキュリティはザルだったけど、 指示した方のやつは、マジでガードが固いわ。 |
セクレト |
ちょっとヒカリちゃん、まだなの? またこっちに敵が近付いてきてるわよ! |
酉原剛 |
お、カメラに手下が映ったぞ。 |
セクレト |
早くここ離れた方がいいわよ! |
ウサタロー |
セクレトの言うとおりだな。 |
ウサタロー |
オイラたちの位置もバレてるだろう。 敵がわんさか来る前に、移動すべきだぜ! |
名雲光 |
は?ないわ。 今ここ離れるとかセンスないっしょ。 |
名雲光 |
こんなチャンス、滅多にねーし! 組織の情報、欲しくないん? |
ウサタロー |
それはそうだけどよー! |
村雨礼司 |
こっちは俺が引き受ける。 気が済むまでやれ、名雲! |
名雲光 |
端末壊されたらどーにもなんないからね! みんな、しっかり守ってよ! |
ウサタロー |
ええい、仕方ねー! ここが踏ん張りどころだぞ、気合い入れろー! |
皆野祐樹 |
うん、わかったよ! |
名雲光 |
あ~!ネットワークが切断された! |
---|---|
酉原剛 |
機械は守りきったぞ!? |
名雲光 |
いや、多分ここじゃない。 外部に繋がってるケーブルを切られたっぽい。 |
村雨礼司 |
……組織のことは、わかったのか? |
名雲光 |
ごめん、わかんなかった。 あと一歩だったんだけど……。 |
ウサタロー |
マジかよ! |
名雲光 |
でも、あのアルゴリズムはどこかで……。 |
名雲光 |
……。 |
村雨礼司 |
くそっ……! 悪の組織を根源から断ち切るチャンスが……! |
皆野祐樹 |
わからなかったものは仕方ないよ。ね? |
村雨礼司 |
……どうしようもないのは、事実だな。 |
名雲光 |
マジごめん。 |
村雨礼司 |
いや、気にするな。 そこまで名雲に期待しちゃいない。 |
皆野祐樹 |
村雨くん、今の言い方はひどいんじゃない? |
名雲光 |
いいって、みなのん。 |
皆野祐樹 |
でもさ! |
村雨礼司 |
カニクラブが組織の怪人だと分かっただけでも十分だ。 あとのことは、奴から聞き出せばいいんだからな! |
名雲光 |
その代わりって言っちゃなんだけど、 カニクラブ見つけたよ。 |
村雨礼司 |
どこにいる? |
名雲光 |
ほら、ここの監視カメラに映ってる。 |
森沢江湖 |
あ、本当だね。 ……でもこれ、一階じゃない? |
森沢江湖 |
なんでこんなところにいるんだろ? |
皆野祐樹 |
回線ケーブルを切りに行ったんじゃない? |
酉原剛 |
それにしちゃ、なにもないところにいるっつーか……。 |
村雨礼司 |
そんなことは、どうでもいい。 |
村雨礼司 |
怪人の居場所がわかったなら、それで十分だ。 ここでカニクラブを排除する! |
皆野祐樹 |
あっ!ちょっと待ってよ村雨くん! 一人じゃ危な―― |
皆野祐樹 |
――って、うわぁっ!? |
酉原剛 |
なんだ今のデケー揺れは!?スゲー音もしたぞ! |
森沢江湖 |
なにかが爆発したみたいな音だったよ!? |
名雲光 |
ウケる。マジでなにかが爆発したみたいだわ。 |
名雲光 |
これは一階の……ウチらが最初に入ってきたとこ? すげー砂煙が広がっててヤバい。 |
ウサタロー |
おいおい、何事だ? とにかく行ってみようぜ! |
皆野祐樹 |
村雨くんも追いかけなくちゃ! |
名雲光 |
そだね、急いだ方がよさそうだわ。 イケメンのすぐ近くに、手下がいるっぽい。 |
ウサタロー |
ったく、世話の焼けるやつだな! |
ウサタロー |
急げ皆野! 村雨のサポートに向かうんだ! |
皆野祐樹 |
村雨くん、無茶してないといいんだけど……! |
不動老師 |
どうやら無事だったようだな。 |
---|---|
ウサタロー |
学園長!? |
不動老師 |
一応、助けにな。 村雨君、話は聞かせてもらった。 |
村雨礼司 |
別に……。 |
不動老師 |
儂は教育者だ。だから言わせてもらうぞ。 |
不動老師 |
過去の恐怖と憎しみにとらわれていては、 真のヒーローにはなれない。 |
不動老師 |
自分だけではなく、いま周りにいる仲間を見るのだ。 なにか言うことがあるのではないか? |
村雨礼司 |
……。 |
酉原剛 |
そんなことより、学園長が来たってことは もう出られるのか? |
不動老師 |
そこは自分たちの力でやりたまえ。 儂はあくまでも導く者なのだからな。 |
ウサタロー |
まかせろ! |
名雲光 |
まー、あんま楽すんのもよくないかもねー。 |
カニクラブ |
ブクブクブク! こいつは驚いたブク! |
---|---|
カニクラブ |
ヒーローの増援が現れたと聞いて出てきてみれば、 まさか不動老師がやってくるとはブク! |
村雨礼司 |
現れたな、カニクラブ! |
カニクラブ |
しかし、この難攻不落のアジトにどうやって…… って、ああああ!? |
カニクラブ |
不動老師、貴様! よくも俺のアジトに大穴を開けてくれたブク!? |
不動老師 |
すまんすまん、ここまでやるつもりはなかったんだが。 |
カニクラブ |
というか、超人能力者でも壊せないはずのドアが……! 貴様、どんな手を使ったブク! |
不動老師 |
どんな手か、だと? |
不動老師 |
ほれ、この手だ。 さすがに左手では硬かったので、右手でな。 |
カニクラブ |
素手で……壊したブク!? |
不動老師 |
いかにも。 |
皆野祐樹 |
学園長、すごすぎない!? 村雨くんや酉原くんじゃ、傷もつけられなかったのに! |
ウサタロー |
これが学園長の実力なんだぜ! |
酉原剛 |
すげーな! 俺様もまだまだパワー不足ってことか! |
カニクラブ |
さすがは不動老師……恐ろしい漢ブク! このままでは形勢がまずいブク! |
不動老師 |
おお、そのことなら心配しなくていい。 儂は手を出さんからな。 |
カニクラブ |
ブク? |
不動老師 |
お主の相手は、儂の生徒たちが務める。 |
村雨礼司 |
今度は勝たせてもらうぞ、カニクラブ……! |
カニクラブ |
ブククク、これはこれは……。 もしかして不動老師は馬鹿ブク? |
不動老師 |
ふふふ、どうだろうな。 あまり儂の生徒たちを舐めないほうがいいと思うぞ? |
ウサタロー |
そうだぜ! 今度はストライカーだけが相手じゃないんだからな! |
酉原剛 |
おう、俺様と勝負だカニクラブ! |
名雲光 |
ウチも適当に頑張るっしょ。 |
森沢江湖 |
怪我は、私が治しちゃうんだからね! |
皆野祐樹 |
僕も、全力で行くよ! ……できれば、このまま引き下がってほしいけど! |
村雨礼司 |
お前、まだそんなことを! |
皆野祐樹 |
うん、怒るだろうなとは思ったよ。 |
皆野祐樹 |
でもごめん。 ウサタローの言うとおり、僕は自分の信念に従う! |
カニクラブ |
引き下がれとは、面白い小僧ブク。 |
カニクラブ |
もちろん、そんな気はないブク! お前たち全員叩きのめしてやるから、覚悟するブク! |
村雨礼司 |
食らえ、ウォーターシュート! |
---|---|
カニクラブ |
レーザー照射! |
村雨礼司 |
くそっ、俺の能力が撃ち砕かれただと!? |
カニクラブ |
ブククク、間抜けめ! お前の攻撃など、俺には効かないブク! |
カニクラブ |
最初の戦闘からなにも学んでいないブクな! |
村雨礼司 |
うるさい、黙れ! |
名雲光 |
ポンキューちゃんであのカニ押さえ込むから、 その隙に攻撃して! |
カニクラブ |
我がハサミの切れ味、存分に味わうがいいブク! |
名雲光 |
ヤバ……ポンキューちゃん真っ二つにされたし。 もっかい出しなおさないと……。 |
カニクラブ |
ブククク、次は誰が相手ブク? 遠慮せずかかってくるブク! |
酉原剛 |
ぬぅ……こいつは参ったぜ。 あいつの身体、鉄みたいに硬いんだよな。 |
皆野祐樹 |
鉄っていうか、ロボだよね。金属製ボディだよね。 |
村雨礼司 |
まだだ! |
カニクラブ |
あがけ、あがけ! いつお前の心が折れるか、楽しみにしているブク! |
村雨礼司 |
諦めるものか! |
村雨礼司 |
俺は悪を許さない! お前も、そしてお前の組織もだ! |
カニクラブ |
ほう、組織を知っているのか。 ……いや、お前たちだからこそ、知っているブクな。 |
カニクラブ |
ダムデス、コンダイン、シャモジン……。 多くの同胞たちが、お前たちの前に倒れてきたブク。 |
村雨礼司 |
答えろ! お前らの組織のボスは何者だ! |
カニクラブ |
答えろと言われて、素直に答えるわけがないブク! |
村雨礼司 |
ぐあーっ! |
皆野祐樹 |
村雨くん! |
カニクラブ |
ブククク、やはり間抜けなヒーローばかりブク。 |
カニクラブ |
不動老師、本当に手出ししなくていいのかブク? |
不動老師 |
うむ、儂は手を出さん。 これは生徒たちが、自分で乗り越えていくべき試練だ。 |
カニクラブ |
漢に二言はないブクな? |
カニクラブ |
ならば不動老師、せいぜい後悔するがいいブク! |
不動老師 |
フフフ、はたしてお主の思いどおりに行くかな? |
皆野祐樹 |
村雨くん、しっかりして! |
村雨礼司 |
くっ……俺にかまうな。 |
村雨礼司 |
言ったはずだ、奴は俺が倒すと……! |
皆野祐樹 |
いや、かまうよ! 僕たちは同じチームじゃないか! |
酉原剛 |
そうだぜ、俺様は礼司を見捨てたりしねぇ! |
森沢江湖 |
私もついてるんだから! |
名雲光 |
ウチもね。 |
村雨礼司 |
だが俺は……お前たちを守るために……。 |
皆野祐樹 |
村雨くんが僕たちを守りたいって思ってるように、 僕たちだって村雨くんを守りたいって思ってるんだ! |
村雨礼司 |
! |
カニクラブ |
そろそろ終わりにするブク、間抜けども! 覚悟はいいかブクー! |
カニクラブ |
ぬぅ、まだ倒れないブク? しぶといやつらブク! |
---|---|
村雨礼司 |
怪人にやられるわけにはいかない! 俺は必ず、お前に勝ってみせる! |
カニクラブ |
弱い分際で、偉そうに吠えるなブク! |
村雨礼司 |
ああ、そうだ……俺は弱い。 |
村雨礼司 |
強くなりたいと願ったからといって、 すぐに強くなれるわけがないんだ……。 |
カニクラブ |
だったら大人しく諦めるブク! |
村雨礼司 |
いいや、諦めるものか! |
村雨礼司 |
……みんな、聞いてくれ。 |
村雨礼司 |
俺は、皆を守れるヒーローになりたいと願っていた。 |
村雨礼司 |
そしてそのために、誰よりも強くなければならないと 考えていたんだ。 |
村雨礼司 |
そのための努力は、してきたつもりだった。 |
村雨礼司 |
お前たちは、俺よりも弱い存在のはずだったんだ。 |
村雨礼司 |
だが、お前たちは成長し、強くなった。 その一方で俺は、なかなか成長できずにいた。 |
村雨礼司 |
俺はそのことで、ずっと焦っていたんだと思う。 |
村雨礼司 |
その苛立ちから、お前たちに八つ当たりしてしまった。 ……本当にすまなかった。 |
村雨礼司 |
俺は認めるべきだったんだ。 |
村雨礼司 |
自分の実力不足を。 |
村雨礼司 |
そして仲間たちが成長し、強くなったという現実を。 |
皆野祐樹 |
村雨くんだって、すごく強いじゃないか! |
酉原剛 |
そうだぜ、この俺様が認めるくらいにはな! |
森沢江湖 |
一番頼れるのは、やっぱり村雨くんだよ。 |
名雲光 |
そうね。 |
村雨礼司 |
……ありがとう。 |
村雨礼司 |
みんな、俺に力を貸してくれ! |
村雨礼司 |
俺一人の力じゃ、カニクラブには勝てない。 |
皆野祐樹 |
もちろん貸すよ!当たり前じゃないか! |
酉原剛 |
そうだ礼司、俺様を頼れ! いつでもお前の力になってやるぞ! |
名雲光 |
ウチもしっかり仕事するし。 |
森沢江湖 |
みんなサポートは、私に任せてね! |
村雨礼司 |
いつかはケアテイカーのように、 誰からも頼られる一人前のヒーローになってみせる! |
村雨礼司 |
だが、その日までは、みんなの力、頼らせてもらう! |
ウサタロー |
ウォォーッ!熱いじゃねーか! 村雨、オイラも力を貸すぜー! |
カニクラブ |
間抜けなヒーローどもが束になったところで、 結果は変わらないブク! |
村雨礼司 |
だったら試してみろ! みんな行くぞ! |
皆野祐樹 |
行こう、村雨くん! |
カニクラブ |
ブクブクブクブクブクブク~! |
---|---|
ウサタロー |
やったぜ!カニクラブ撃破だ! |
酉原剛 |
よし!やったぜ! |
皆野祐樹 |
村雨くん、最後の攻撃すごかったよ! |
村雨礼司 |
皆野こそ、大したものだった。 |
不動老師 |
うむ、しかと見届けさせてもらった! 実に見事な戦いだったぞ! |
村雨礼司 |
ありがとうございます、学園長。 |
不動老師 |
村雨君。 おのれの弱さと、よくぞ向き合った。 |
不動老師 |
そう、君の隣にいる者たちは、守るべき者じゃない。 君と並び立ち、共に歩んでいく者たちなのだ。 |
不動老師 |
かつてのケアテイカーもそうだった。 |
不動老師 |
彼は一流のヒーローとして、多くの命を守ってきたが、 一度として、救った命を庇護対象とは見ていなかった。 |
不動老師 |
彼にとっては、ヒーローも、怪人も、すべての人間が、 共に並び立つ対等な存在だったのだ。 |
村雨礼司 |
……父さん。 |
不動老師 |
これからも精進したまえ、村雨君。 そしてもちろん、君たちもな! |
村雨礼司 |
はい! |
不動老師 |
では私は一足先に帰らせてもらおう。 また学園で会おう! |
村雨礼司 |
ありがとうございました! |
ウサタロー |
んじゃ、オイラたちも帰ろうぜ。 |
酉原剛 |
せっかく北海道まで来たんだ。 なにか美味いもの食っていこうぜ! |
森沢江湖 |
なにがいいかな~。 北海道って美味しいものがたくさんあるんだよね! |
名雲光 |
ほどほどにしとかないと、後で後悔するよエコちゃん。 |
森沢江湖 |
大丈夫!別腹に入れるから! |
名雲光 |
前もそんなこと言って、あとで泣いてたよねぇ? |
村雨礼司 |
……皆野。 お前には改めて謝っておきたい。 |
皆野祐樹 |
え、どうしたの? |
村雨礼司 |
お前の理想を侮辱したからな。 ……本当にすまなかった。 |
皆野祐樹 |
べ、別にいいよ! |
村雨礼司 |
入学以来、一番の成長を遂げたのは、 間違いなく皆野だ。 |
村雨礼司 |
ウサギの言葉じゃないが、俺も認めよう。 |
村雨礼司 |
お前は俺よりも、強い。 |
皆野祐樹 |
えええっ、そんなことないよ! 絶対ない! |
村雨礼司 |
……だけどな、お前の強さを認めて、 それで終わるつもりはないからな。 |
村雨礼司 |
俺は力を磨いて、またすぐにお前を超えてみせる。 |
皆野祐樹 |
村雨くんなら、すぐ追い越しちゃうよ。 |
村雨礼司 |
ハハ、そこは違うぞ、皆野。 |
村雨礼司 |
僕も負けないって、張り合ってくれないとな。 |
皆野祐樹 |
! |
皆野祐樹 |
うん、負けない! 僕も頑張って、もっと強くなってみせるよ! |
村雨礼司 |
ああ……それでこそだ。 |
村雨礼司 |
これからもよろしくな。 |
皆野祐樹 |
うん、こちらこそ! |