第1部 第4章
受け継がれるマスク
ウサタロー |
ここだな! |
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酉原剛 |
うおおおお、出てきやがれ、怪人シャモジン! |
皆野祐樹 |
勢いで出動しちゃったけど、よかったのかな。 |
酉原剛 |
伝説のヒーロー、ファルコンマスクが 再起不能にされたんだぞ!これを放っておけるか! |
村雨礼司 |
お前たちは先走り過ぎだ。 フォローする側のことも考えろ。 |
森沢江湖 |
大丈夫よ。 酉原くんがケガしないように気をつけましょ。 |
セクレト |
男には戦うべき時がある…… いまがその時だ。 |
ウサタロー |
またなんか変だぞ。 |
名雲光 |
トリ頭の仇討ちだからね~。 それっぽい人格にしてみたよ。 |
酉原剛 |
ウオオオオ! お前ら怪人はセクレトの調査から逃げられねえ! |
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酉原剛 |
そしてこの俺様、エンゲルマスクからもな! |
酉原剛 |
絶対に、絶対に許さねえぞ! おいしそうな外見だからって食ってもらえると思うな! |
名雲光 |
なー、落ち着きなよ。 最初からそんなテンションだと持たないって。 |
酉原剛 |
やなこった! 今回の俺様は、誰にも止められねえぜ! |
皆野祐樹 |
だ、大丈夫かな? |
ウサタロー |
しかし、大丈夫なのか? 村雨じゃないけど、暴走は困るぜ。 |
森沢江湖 |
落ち着くお注射、しちゃおうかな? |
ウサタロー |
なんだよそれー。 |
村雨礼司 |
高い血糖値は意識レベルの低下を招くからな。 酉原の能力は少し危険だぞ。 |
皆野祐樹 |
すごい勢いで食べてから来たもんね……。 |
村雨礼司 |
それもそうだが、年齢を重ねてからの健康が心配だ。 若いうちに無茶をすると、あとで響くというからな。 |
酉原剛 |
礼司よお、お前、もうジジイみてーだぞ。 今から老後の心配してんじゃねーよ。 |
村雨礼司 |
そ、そうか? |
皆野祐樹 |
いや、健康は大事だよ |
皆野祐樹 |
僕の尊敬する昭和の文豪たちも、 無茶な生活をする人ばかりで……。 |
皆野祐樹 |
だいたい、お爺ちゃんになる前に死んでる……。 |
森沢江湖 |
大丈夫よ? 酉原くん、毎月の健康診断が義務になってるから。 |
村雨礼司 |
そうだったのか? |
酉原剛 |
ヤバい数値が出たら、超人能力使用禁止だってよ。 ま、問題はなにもねーけどな! |
森沢江湖 |
オールAなのです! |
名雲光 |
成績表と違って? ウケる~。 |
酉原剛 |
あれも一種の成績表だろ! |
村雨礼司 |
……待て、怪人がいるぞ。 待ち構えているな。 |
酉原剛 |
ウオオオオオ!! |
皆野祐樹 |
行っちゃった! |
セクレト |
あれは……シャモジンが生成した手下怪人だ。 しかし、様子が変だな? |
酉原剛 |
聞け!俺様は正義のヒーロー、エンゲルマスク! ファルコンマスクの仇を討つため食卓からやってきた! |
手下 |
モジモジ! しっかり撮影しておくモジモジ! |
酉原剛 |
手始めはお前からだ! 怒りのエンゲルスマッシュを受けろォ! |
村雨礼司 |
撮影……しているのか? どこのTV局だ!? |
名雲光 |
いや、ネットでしょ。 |
村雨礼司 |
なんだと……! いや、それより酉原だ。あいつ……! |
ウサタロー |
やめろ酉原! 怒りにまかせて暴走するな! |
酉原剛 |
エンゲルチョップ! エンゲルフライングボディプレス! |
手下 |
モ、モジ~! やられる~! |
酉原剛 |
とどめだ! エンゲル四の字固めだァァ!! |
皆野祐樹 |
あれじゃ、まるで悪役だよ! |
酉原剛 |
ハア、ハアハアハア……! |
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酉原剛 |
次はどいつだ、おらァ! |
森沢江湖 |
えっ、ドイツに行くの? お城とか寄ってもいい? |
酉原剛 |
は? |
森沢江湖 |
飛行機でドイツに……。 |
酉原剛 |
行かないぞ? どうした江湖、なんか変なもんでも食ったか? |
名雲光 |
トリ頭が正気に戻った! |
ウサタロー |
酉原! |
酉原剛 |
あ、ああ……なんだ? ここいらの怪人はどこにいるんだ? |
セクレト |
それを知ることが、お前のためになるかどうか……。 心情的には、教えてやりたいんだがな。 |
名雲光 |
やめろ。 セクレト、トリ頭を乗せないでよ。 |
セクレト |
復讐にはなんの価値もない。 だが、それを追い求める魂というものがある。 |
セクレト |
止めたくないのさ……。 |
名雲光 |
止めなさいよ。 価値判断ルーチン、まだいじってないんだからね。 |
セクレト |
……そういうことだ。 すまないな、少年。 |
酉原剛 |
セクレトも、どうかしたのか? |
村雨礼司 |
今ごろ気付いたか。 今回はハードボイルドモードか? |
セクレト |
男の世界、さ。 |
酉原剛 |
よくわからねーぜ。 |
セクレト |
いずれすべての少年が、わかるようになってしまう。 そして昔を懐かしむんだ。 |
セクレト |
ともあれ酉原少年、今回の敵はカメラを装備している。 悪役じみた姿を、世界にさらすな。 |
ウサタロー |
そ、そうだぜッ! ヒーローはやりすぎちゃいけない! |
酉原剛 |
ああ、まあ。 気をつけるぜ。 |
村雨礼司 |
さっき、名雲がネット中継と言っていたな? あれはどういうことなんだ? |
名雲光 |
怪人ってほら、バカだからさ。 自分の犯罪自慢とかするじゃん。 |
名雲光 |
SNSにコンビニ強盗の自撮り上げて、 ヒーローに見つかるヤツとかけっこういるよ? |
村雨礼司 |
……どこまでバカなんだ。 |
皆野祐樹 |
わからなくもないかもなあ。 |
村雨礼司 |
おい、皆野。 口には気をつけろよ。 |
皆野祐樹 |
僕は能力が弱いから、そうでもなかったけどさ。 もし強い超人能力を手に入れてたら……。 |
皆野祐樹 |
……きっと、なんでもできる気になって、 なにか悪いことをしちゃってたかもしれない。 |
皆野祐樹 |
これまで目立たなかった僕の人生は、 このときのための序章だったんだ! |
皆野祐樹 |
……とか言ってさ。 |
村雨礼司 |
超人能力発現者のためのガイドラインや、 支援機関があるだろう。 |
名雲光 |
いやあれ、役に立たないし。 マジで、超人能力者が強すぎるんだよねえ。で……。 |
酉原剛 |
……おっ、怪人だぜ! 正義のヒーローの裁きを受けろ! |
怪人 |
モジ~! 二回戦、数を増やしていくモジ! |
名雲光 |
ああっ、トリ頭! |
村雨礼司 |
あいつ、なにも聞いてなかったのか!? くそッ、森沢の渾身のボケが無駄に! |
森沢江湖 |
……ん? |
酉原剛 |
ふう……ふうう……。 |
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皆野祐樹 |
だ、大丈夫? 酉原くん、さっきからなにも食べてないよ。 |
酉原剛 |
メシ食ってる場合じゃねえ! 俺様は怒ってるんだぞ!怒りながらメシが食えるか! |
皆野祐樹 |
そ、それは確かに。 |
酉原剛 |
メシは心を満たしちまう。 だから俺様はいま、なにも食べられねー。 |
酉原剛 |
この胸に燃える怒りを! 消したくねーんだよ! |
ウサタロー |
でも、それじゃあいずれ力尽きるぞ……。 |
酉原剛 |
その前にシャモジンを見つけて倒せばいいだろうが! うおおおお!どこだァ!? |
村雨礼司 |
参ったな。 完全に自分を見失っている。 |
村雨礼司 |
カロリー切れのところを囲まれたら終わりだというのに 一人で先走るとは……。 |
皆野祐樹 |
なんとか追いつこうよ! |
村雨礼司 |
却下だ。怪人シャモジンを探し出して倒す任務が、 先ほど正式に下された。 |
セクレト |
転送前に申請しておいたのさ。 俺にはこれくらいしか、できないからな。 |
村雨礼司 |
つまり失敗はできない。 酉原はチームメイトだが、いまは戦力外だ。 |
皆野祐樹 |
そんな! 仲間を見捨てるなんて……! |
村雨礼司 |
勘違いするなよ。戦力として計算できないだけだ。 なにかあったときには助ける。 |
村雨礼司 |
だが、酉原をカバーするために 俺たちの戦力は低下する。迷惑な話だ。 |
ウサタロー |
あいつの気持ちを、汲んでやれないのかよ。 |
村雨礼司 |
気持ちで動くものはヒーローではない。 まして、気持ちに引きずられるなど論外だ。 |
村雨礼司 |
ルールに従い、確実に悪を倒すようにしろ。 |
名雲光 |
あー、またそんなこと言ってさー。 |
皆野祐樹 |
……わかった。 |
ウサタロー |
おい!? |
皆野祐樹 |
冷静さを保って先に進むことが、 酉原君を助けることにも繋がる。……そうだよね? |
村雨礼司 |
そういうことだな。 物わかりが良くて助かる。 |
名雲光 |
ねえねえ。 トリ頭、もう奥のほうで始めちゃってるよ? |
森沢江湖 |
えっ? 光ちゃん、どうしてわかるの? |
名雲光 |
配信、見てるから。 ……あははははははは! |
名雲光 |
トリ頭、「凶悪食い意地男」とかテロップ出てる! マジウケるんですけど。 |
皆野祐樹 |
……ちょっと怪人さんたち、やりすぎだよね。 |
ウサタロー |
普段のあいつは、 食い意地は張ってるけど凶悪じゃないぜ。 |
村雨礼司 |
構うな。酉原のカバーに回るぞ。 |
森沢江湖 |
私、酉原くんの言ってたことは間違ってると思う。 うん、絶対違う。 |
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名雲光 |
どしたん? |
ウサタロー |
えーと……。 |
皆野祐樹 |
どれが間違ってるって話? いろいろあるよね。 |
ウサタロー |
皆野、そんなにハッキリ言うなよ! |
森沢江湖 |
さっきの話! 怒りながらご飯を食べることは、できます! |
セクレト |
フッ。 そうかもしれないな。 |
森沢江湖 |
私、最近いつも、ご飯を食べるときには怒ってるから! |
皆野祐樹 |
うーん、どうして? |
森沢江湖 |
おいしいから! |
村雨礼司 |
……さっぱり話が見えないんだが。 だれか、わかってる奴はいるのか? |
セクレト |
俺はわかっているさ。 だが、わかっていても言うべきでないことはある。 |
村雨礼司 |
使えないAIだ。 |
セクレト |
そのうち役に立つさ。 いずれ、わかる。 |
森沢江湖 |
……ご飯がおいしいから、たくさん食べちゃうんです! おいしいせいで! |
森沢江湖 |
許せない! |
名雲光 |
そういう話かー。 |
ウサタロー |
太ったんだな。 |
ウサタロー |
また。 |
皆野祐樹 |
ウサタロー、そんなハッキリ……! |
森沢江湖 |
ダイエットなんて無理だよぉ……。 |
ウサタロー |
ご飯のせいにするなよな。 |
村雨礼司 |
前も言った気がするが、俺はダイエットを勧めない。 だが、やろうとして挫折するのは食事のせいじゃない。 |
村雨礼司 |
意志の問題だ。 |
名雲光 |
やめて! エコちゃんの逃げ場を奪わないで! |
名雲光 |
なにかのせいにしてるうちは…… プクプクで、かわいく……フフフフ。 |
ウサタロー |
比べると安心できるのか? |
名雲光 |
う、うっせー! |
森沢江湖 |
光ちゃん、私のことをそんな目で!? |
皆野祐樹 |
あー……収拾がつかないかも。 村雨君、どうしよう? |
村雨礼司 |
こっちに振るんじゃない! 森沢の相手はお前のほうが適任だろう。 |
皆野祐樹 |
じゃあ、頑張ってみるよ。 |
皆野祐樹 |
森沢さん! |
森沢江湖 |
なに!? いま、大事な話を……。 |
皆野祐樹 |
向こうからブレーンバスターの音がするよ! 酉原くんが戦ってるのかも! |
森沢江湖 |
えっ、大変!すごく危険な技じゃない! 酉原くんでも怪人さんでも、危ないわ! |
森沢江湖 |
治療しに行かないと……! |
ウサタロー |
ブレーンバスターの音ってなんだよ? 皆野もなんか、悪いこなれかたしてないか? |
皆野祐樹 |
えへへへ。 |
名雲光 |
マジで助かった。友情マジピンチだったわ。 |
皆野祐樹 |
音がしたのは本当だってところがポイントかな。 さあ、僕らも向かおうよ。 |
皆野祐樹 |
酉原くん、焦りすぎだよ! 気持ちはわかるけど……。 |
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酉原剛 |
お前にファルコンマスクのなにがわかるってんだ! |
皆野祐樹 |
……わかるよ。けっこう有名人だし。 |
酉原剛 |
まあ、そりゃそうだな。 |
ウサタロー |
急に落ち着いた!! |
セクレト |
大人気プロレスラー、かつ「ヒーロー」だな。 もちろん、年齢的に超人能力が残っているわけは……。 |
酉原剛 |
やめろ。それは話しちゃいけないことなんだ。 |
セクレト |
すまない。 |
森沢江湖 |
中継中に倒されて、マスクをはがされて……。 |
名雲光 |
さすがにウケてらんなかったよね。 |
酉原剛 |
だいぶ手下怪人も倒して腹が減ってきた。 だから冷静になれたのかもな。 |
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セクレト |
カロリー切れ警告はいまも有効だ。 切れる前に、食べろよ。 |
酉原剛 |
ああ。 みんな、心配かけてすまなかったな。 |
村雨礼司 |
話は聞いていたか? シャモジンの撃破は俺たちの任務になった。 |
皆野祐樹 |
きっと、学園長がそうしてくれたんだよ。 |
酉原剛 |
あの爺さんならやりそうだよな。 |
ウサタロー |
ウオオオオオーッ!!酉原の気持ちを 汲んでやれるなんて、学園長、男だぜ! |
村雨礼司 |
……。 |
酉原剛 |
それで案外、そのへんに隠れてるかもしれねーぜ。 |
酉原剛 |
俺たちが負けそうになったら 「ここは任せろ!」とか言って出てくるのさ。 |
不動老師 | (……鋭いな) |
名雲光 |
あはは、お爺ちゃん、わりと出たがりだもんね? |
セクレト |
年寄りの冷や水……。 |
不動老師 | 黙らっしゃい!生徒がピンチのときに 出て行くために鍛えておるのだ! |
名雲光 |
……声が。 |
皆野祐樹 |
……いるね。 |
村雨礼司 |
いるな? |
森沢江湖 |
ど、どうしよう? |
ウサタロー |
こんなとき、ヒーローはどうする!? 簡単だ。気付かないふりをしようぜッ! |
皆野祐樹 |
それしかないかな……苦しいけど! |
酉原剛 |
あー、あー!不動学園長がこのあたりに いるかもしれないと思ったけどよ! |
酉原剛 |
そんなことはなかったぜ! |
皆野祐樹 |
学園長も忙しい人だし、 こんなところにいるわけないよね! |
森沢江湖 |
でも、ピンチのときに 出てきてもらえたら嬉しいかもー! |
名雲光 |
学園長、マジで強いしね。 伊達にずっと鍛えてないよね! |
村雨礼司 |
お前ら、よくそんなにスラスラと。 |
皆野祐樹 |
けっこう苦しいよ? |
名雲光 |
イケメンもやれよ-。 |
村雨礼司 |
お、お前たち、学園長がいるわけないだろう。 |
村雨礼司 |
これは俺たちの任務だから、 俺たちが片を付けるしかないんだ。 |
不動老師 | うむうむ……偉いぞ、村雨君。 しかし、儂のことはバレていないようだな。 |
皆野祐樹 |
せ、セクレト。 これでごまかせた? |
セクレト |
そうだな。バレていないよ。 優しい世界だ……春の雨のようだ。 |
名雲光 |
余計な気、使わせないでほしいなあ。 さっさとシャモジン探そうぜー。 |
村雨礼司 |
酉原が元に戻った今、戦力の低下もなくなった。 ここからは問題ないはずだ。 |
ウサタロー |
さっきから、戦いのネット配信は続いてるのか? |
---|---|
名雲光 |
うん。誰がかっこいいとか、 そういう話もSNSで始まったよ。 |
森沢江湖 |
えっ。 |
名雲光 |
気になる? 気になっちゃう? |
ウサタロー |
まあ、ヒーローとしてそれは当然だ。 人気あってこそ、だろ? |
村雨礼司 |
くだらないな。 任務のほうが重要だ。 |
ウサタロー |
村雨、人気出そうだよな。 |
村雨礼司 |
な、なにを言うんだ!? |
皆野祐樹 |
いまの「くだらないな」とか、良かったよね。 |
名雲光 |
イケメン、クールキャラだよね。 簡単には仲良くなってやらないぞ、みたいな。 |
村雨礼司 |
だから俺は! キャラ作りなどしていないんだ! |
名雲光 |
ちなみに一番人気は、ぶっちぎりでイケメン。 よかったねー。 |
皆野祐樹 |
だよねー。 |
村雨礼司 |
そ、そうか。 |
酉原剛 |
ちょっと嬉しそうにしてんじゃねーよ! |
名雲光 |
ワーストはトリ頭だね。 暴れすぎかもよ。 |
酉原剛 |
あ、ああ……。 |
名雲光 |
ファルコンマスクの仇を討ちにきたのは、 ひどい乱暴者だった! |
名雲光 |
みたいな話にされてるし、気をつけたほうがいいね。 |
酉原剛 |
なんだって……。 俺様は、ファルコンの名前を汚しちまったのか!? |
名雲光 |
まだそこまでじゃないから。 ここからはベビーフェイスでいきなよ? |
ウサタロー |
そうだぜ!手下怪人の頭を掴んで、 何度も床にたたきつけるとかはナシだ! |
森沢江湖 |
回復はしたけど……そうだね~。 メッ!ですよ! |
村雨礼司 |
どうせ本体を倒せば消える手下怪人に、無駄なことを。 |
名雲光 |
その優しさが世界平和につながったりするんだけど。 イケメン、わかってる? |
村雨礼司 |
……どういうことだ? |
名雲光 |
エコちゃんの優しさを見た人は、自分も ああなりたい、あんなふうにできたらって思うの。 |
森沢江湖 |
え、そ、そうかな? |
名雲光 |
そんで、ちょっと優しくなるわけよ。 ファルコンマスクがやってたことも同じ。 |
酉原剛 |
ファルコンはいつもメッセージを言ってたぜ。 私は決して、戦いを諦めない。 |
酉原剛 |
子供たちを守るものは、無敵だ! 怪人たちよ、お前たちがどこに隠れようと……。 |
ウサタロー |
正義の翼は、必ず舞い降りる!だな! あいつは熱い男だぜ! |
酉原剛 |
……俺様がキメたかったのにな。 |
名雲光 |
要するに、 見てる人がいるときは言動に気をつけなよってこと。 |
村雨礼司 |
……フン。 怪人が来たぞ。構えろ。 |
ウサタロー |
体がしぼんできてるぞ。酉原。 そろそろ補給しないといけないぞッ。 |
---|---|
酉原剛 |
おう。すまねーな。 |
皆野祐樹 |
あれ、前と食べ物が違うね? 食べかたも……。 |
酉原剛 |
前のはフライドチキンとかチョコバー ……つまり肉とか砂糖、油だな。 |
酉原剛 |
このへんは即効性があるが重たいし、 大量に食うと調子を崩すことがある。 |
皆野祐樹 |
そうなんだ? |
ウサタロー |
食事のことになると、酉原はマジメだぜ! 勉強もしてるんだ! |
酉原剛 |
へへへ、照れるぜ。 |
酉原剛 |
で、食物繊維を含んだやつに切り替えて、 ゆっくりエネルギーを摂取できるようにした。 |
酉原剛 |
食べかたは、さっきの教訓を活かして変えたぜ。 つまりは……よく噛んでゆっくり食べる! |
村雨礼司 |
それはいいんだが、食べながら叫ぶな。 |
酉原剛 |
満腹する前に限界以上に食べちまうってことが 多くてな。これは効率がスゲー悪い。 |
酉原剛 |
調子も悪くなって、さっき暴走してたときみたいに ボンヤリしちまうのさ。 |
皆野祐樹 |
おおー。 |
名雲光 |
技術でエンゲルマスクがパワーアップするって すごいねー。ちょっと見直した。 |
酉原剛 |
これでパワーは安定してるみてーだけど、 食べるのに時間がかかっちまうのが欠点だな。 |
酉原剛 |
急な戦闘に備えて、氷砂糖の袋も準備はしてるんだぜ! |
森沢江湖 |
そ、それは……一気飲みするの? |
酉原剛 |
エンゲルマスク! シュガーラッシュモード! |
酉原剛 |
……と、名付けたぜ。 コーヒーなんかと一緒に飲むといい。 |
皆野祐樹 |
徹夜でテスト勉強するときのコツみたいだね。 |
酉原剛 |
まあ俺様は、そんなことしないわけだがな。 |
村雨礼司 |
しろよ! |
酉原剛 |
よく食べて、よく寝て、 よくスープレックスするのが一番大事だ。 |
酉原剛 |
と、ファルコンマスクも言ってたぞ。 |
村雨礼司 |
二番目以降が大事じゃないわけではないだろう。 |
村雨礼司 |
酉原は食べ物のことなら勉強できるんだろう? なら、学問をもっと修めれば強くなれるはずだ。 |
酉原剛 |
めんどくせー。 向きじゃないんだよ。 |
酉原剛 |
俺様、一点集中突破タイプだからな! |
皆野祐樹 |
うらやましいなあ……。 |
酉原剛 |
そうだろ、そうだろ! |
皆野祐樹 |
自分の強みとか、やることがわかってるって すごいよね。 |
森沢江湖 |
あっ、そっちだった? |
名雲光 |
ん? |
森沢江湖 |
私もうらやましいと思ったんだけど、 その、いつもお腹いっぱい食べられるのが……。 |
酉原剛 |
ハハハハ! 女子は大変だな! |
森沢江湖 |
酉原くん、ファルコンマスクの試合は よく見に行ってたの? |
---|---|
酉原剛 |
ガキのころはな! 同じTシャツに、二十回サインしてもらったぜ。 |
名雲光 |
なにそれ……。 |
酉原剛 |
日付とイベント名が毎回違うからな。 そのときは一年分コンプしようとしてたんだ。 |
ウサタロー |
興業に全部行ったのか! それはすごいな! |
酉原剛 |
当時の小遣いを六年ぶんつぎ込んだぜ……。 でも最高に楽しかった! |
村雨礼司 |
着るのか?そのTシャツ。 ちょっと想像しづらいな。 |
酉原剛 |
小学生のときのシャツを着れるわけねーだろ! 額に入れて部屋に飾ってるっての。 |
森沢江湖 |
わー、記念品なんだね。 いいなあ。 |
酉原剛 |
まあな! 超人能力が発現したときは嬉しかったもんだぜ。 |
酉原剛 |
俺様、デカくなったらファルコンになる!って そればっかり言ってたからな。 |
酉原剛 |
ファルコンが俺様の願いを叶えてくれたんだと思って、 台所の神棚にスゲーお礼参りした。 |
名雲光 |
ん? |
皆野祐樹 |
そこにいるのは別の神様じゃないかな。 |
酉原剛 |
中学生のやることだぜ? 大目に見ろよな。 |
ウサタロー |
でも、願いが叶ってよかったなあ! ヒーローになれたんだからさ! |
酉原剛 |
ああ。そこから本格的に鍛えたり食ったりの毎日さ。 試合には……行かなくなっちまったな。 |
森沢江湖 |
あれ?どうして? |
酉原剛 |
手が届くようになったからさ。 |
酉原剛 |
俺様はファルコンマスクみたいな ヒーローになれる力を手に入れた。 |
酉原剛 |
もう、ただのファンではいられねーよ。 ライバルってのも恐れ多いけど……。 |
酉原剛 |
ああこれ、なんて言うんだ? |
皆野祐樹 |
ライバルでいいんじゃないかな。 いつか超えようって、そう思ってたんでしょ? |
酉原剛 |
バカな!誰もファルコンマスクは超えられねー! ……まあでも、そうかもな。 |
セクレト |
今回のことがなくても、彼の引退は近かったはずだ。 酉原少年、お前はもう……。 |
酉原剛 |
そうかもな。 |
酉原剛 |
でもさあ、俺はまだ小学生のとき、 ファルコンが握手してくれたことを忘れられねーよ。 |
酉原剛 |
君は私より強いヒーローになれる! リングで待っているぞ!って、言ってくれたんだ。 |
村雨礼司 |
……そして、いまのお前がいるんだ。 ファルコンマスクは正しかった。 |
村雨礼司 |
名雲もな。 ヒーローらしさが、ヒーローを作ることもあるんだな。 |
名雲光 |
でしょー? |
酉原剛 |
俺様は、ファルコンマスクに近づけてるかな? |
---|---|
村雨礼司 |
彼のためにそこまで熱くなっているんだ。 遠くはないと思うぞ。 |
酉原剛 |
へへへ……照れるぜ。 正義のヒーローになりたいと、ずっと思っていたんだ。 |
ウサタロー |
なれてるさ。立派だぜ! |
森沢江湖 |
大きいし、たくさん食べられてすごいよね~。 |
酉原剛 |
そっちかよ。まあなんだ、卑怯なやりかたで ファルコンマスクを汚したシャモジンは許せないんだ。 |
皆野祐樹 |
わかるよ。 僕も一緒に戦う。 |
名雲光 |
みんな一緒だよ! ウチら友達じゃん! |
酉原剛 |
すまねえな。 せめてケガしないように、お前らを守るぜ! |
名雲光 |
あっ、すごいよトリ頭! ネットニュース見てみ? |
---|---|
酉原剛 |
んー? |
名雲光 |
SUPERSが ファルコンマスクトーナメントを創設だって。 |
名雲光 |
ベルトも新しく作るらしいよ。 |
酉原剛 |
おおお!? スゲーな!いつやるんだ? |
名雲光 |
来月。 やっぱ本命はグランドシェイカーかな? |
酉原剛 |
ダークワンじゃねーか? ずっとファルコンのライバルだったし、燃えるだろ。 |
皆野祐樹 |
……なんの話? SUPERSってなに? |
酉原剛 |
プロレス団体だぜ。 ファルコンマスクは知ってるのになあ。 |
皆野祐樹 |
ごめん、疎くて……。 |
ウサタロー |
SUPERS所属のレスラーは、 みんな元ヒーローなんだぜ! |
ウサタロー |
それでこう、チームができたり分裂したり……。 |
酉原剛 |
げ・ん・え・き。 みんな現役だからな! |
村雨礼司 |
無理があるだろう、それは。 年齢的に……。 |
酉原剛 |
俺はプロレスの見かたとか解説したくねーよ! 礼司、お前は無粋だ! |
村雨礼司 |
ああ、なんというか……すまないな。 |
名雲光 |
恋愛とか政治要素もアツいよ。 ネットでけっこう無料配信あるから、見てみなよ。 |
森沢江湖 |
恋愛! |
酉原剛 |
殴り愛って感じだけどなあ。 |
名雲光 |
そこがいいんじゃない。 男子同士とかもあるし? |
村雨礼司 |
へえ。けっこう進歩的なんだな。 |
ウサタロー |
ダークワンとブラッドタイプの件とかな! あれは泣けたぜ! |
酉原剛 |
あれかー。男の友情なのか、 恋愛感情なのかどうかわかんなくなって……。 |
酉原剛 |
ブラッドタイプが身投げしたりしてたな。 |
酉原剛 |
俺は恋愛とかよくわかんねーけど、 あれはなんか、心に響いたなあ。 |
森沢江湖 |
絶対見る。 |
皆野祐樹 |
身投げ……。 |
酉原剛 |
次のシーズンでサイボーグになって復活してたぜ。 |
ウサタロー |
電撃の超人能力を身につけたけど、 記憶が消えちゃってて大変なんだ! |
森沢江湖 |
絶対見る! |
セクレト |
少女よ、力強いな……。 |
皆野祐樹 |
面白そうだよね。 |
酉原剛 |
そんな面子のなかで、不動のチャンピオンだったから ファルコンマスクはすごいんだぜ。 |
村雨礼司 |
なるほどな……。 俺は、大相撲の解説くらいでしか見たことがなかった。 |
名雲光 |
そのへんの仕事は続くんじゃね? 死んではいないんだし……。 |
酉原剛 |
でもよ、俺はもっと ファルコンマスクの試合を見たかったよ。 |
手下 |
よくここまで来たモジ! この廃ビルの中間地点で、中ボスがお相手するモジ! |
---|---|
ウサタロー |
中ボス!? 油断するなよ。こいつなにか、雰囲気が違うぜッ! |
皆野祐樹 |
怪人がいっぱい出してくる手下怪人に、 中ボスなんているの? |
セクレト |
これまでのところ、そんな例はない。 だが、どんなことにでも最初はあるものだ。 |
酉原剛 |
中ボスか……。 |
皆野祐樹 |
本当かなあ……。 |
村雨礼司 |
見た目に変化はないが、 特殊な攻撃を仕掛けてくるかもしれない。 |
手下 |
特殊攻撃はないモジ! 各種能力が高くなっているタイプ、モジ! |
ウサタロー |
なんだって……! そいつは厄介だぜ! |
名雲光 |
うーん、配信でも「中ボス」って テロップがついてるね。あいつに被る形で。 |
村雨礼司 |
これは、たぶん……。 |
皆野祐樹 |
言ってるだけだよね。 |
村雨礼司 |
おい手下怪人。そんなことを言っても 強力な攻撃が飛んでくるだけだぞ。 |
皆野祐樹 |
そんな、無理な役をやることないよ。 僕らはシャモジンさんを捕まえたいだけなんだ。 |
手下 |
僕は中ボス怪人だモジ! 見くびっていると全滅するモジ! |
森沢江湖 |
うーん? もしかして、私たちを倒す気はないのかな? |
手下 |
体力を削ってシャモジン様の戦いを楽にするモジ。 |
名雲光 |
あー。 |
手下 |
それが中ボスの役目モジ! |
名雲光 |
もう避けていこうよ。 マジでやる気なくなったし。 |
皆野祐樹 |
負けるとわかっていて戦いを挑むなんて……。 |
手下 |
ライオンハート、お前がそれを言うモジか? 手下にとって、自分を作り出した怪人は神も同然モジ。 |
手下 |
勝ち目のあるなしで戦うわけじゃない!モジ! |
皆野祐樹 |
うっ……。 |
手下 |
キューバーン戦の情報はもらっているモジ。 お前なら、僕の立場も気持ちもわかるはずだモジ。 |
村雨礼司 |
どうやら、問答無用だな。 消えてしまえ。 |
酉原剛 |
中ボスでないなら、別に怖くないぜ。 順当に倒していこう。 |
手下 |
お前たちにわずかな傷でも負わせられれば、 僕の役目は果たされるモジ。 |
ウサタロー |
敵ながら……立派なヤツだぜ。 あの想いに応えるには、戦うしかないッ! |
皆野祐樹 |
悲しすぎるよ……。 |
村雨礼司 |
怪人がすべて、いなくなればいいんだ。 些末なことに心を砕くな。 |
皆野祐樹 |
くっ、い、いくよ! |
皆野祐樹 |
はあ……うーん。 |
---|---|
ウサタロー |
中ボスは雄々しく戦って倒れたんだぜ。 倒した皆野がそんなんで、どうする! |
皆野祐樹 |
村雨くんの言うとおり、僕は甘すぎるのかなあ。 やっぱり向いていない気がしてきたよ。 |
皆野祐樹 |
手下怪人にも心があるのに、 僕はあんなにたくさん、倒して……。 |
村雨礼司 |
気にするな。 あれは生き物じゃない。 |
名雲光 |
セクレトみたいなもんかな。 |
村雨礼司 |
怪人の道具だ。 情けをかけるだけ、被害が増える。 |
森沢江湖 |
……ほんとにそう思ってる? 私が手下怪人を手当てしても、無理に止めないよね。 |
村雨礼司 |
……。 |
森沢江湖 |
ただの道具とか思ってないでしょう? それってダムデスが言ってたことだよ。 |
名雲光 |
そーだね。 イケメン、それちょっとヤバいよ。 |
村雨礼司 |
心があったとしてどうなる! 俺たちは人間を救うヒーローだ! |
皆野祐樹 |
そう、なのかなあ。 手下怪人は救っちゃダメ? |
村雨礼司 |
ああ、お前は堂々巡りが多すぎる! ダメだ! |
皆野祐樹 |
うーん……。 |
酉原剛 |
祐樹は考えすぎなんだよ。 スゲー簡単だぞ、そんなの。 |
皆野祐樹 |
うん? |
酉原剛 |
手下怪人は、だいたい悪い。 悪いのは倒していい。向こうから襲ってくるしな。 |
ウサタロー |
自衛は……悪いことじゃないよな! |
酉原剛 |
たまにいい奴がいたら、見逃してやればいい。 戦う必要がなかったらの話だけどよ。 |
セクレト |
ふうむ。 シンプルだな、酉原少年。 |
酉原剛 |
握手するのも、ぶん殴るのも 手が届くとこまでしか、できねーからな。 |
酉原剛 |
中ボスの話だったら、あいつは理由があって戦った。 別に気に病むことじゃねーよ。 |
酉原剛 |
ウサタローの言うとおりだぜ。 |
ウサタロー |
お、おう! |
村雨礼司 |
一応言っておくが、俺はどんな怪人でも 見逃すのは反対だ。 |
酉原剛 |
細かいこと言うなよ。本体を倒せば消えるんだぜ。 |
皆野祐樹 |
それもあるんだよね。 いい手下もいるのに、本体を倒すと……。 |
酉原剛 |
そんなもん、俺様たちだって 明日死ぬかもしれねーだろう。 |
酉原剛 |
どうしようもねーもんは、どうしようもねーよ。 できることをやったら、後悔はない。 |
酉原剛 |
そんな言葉が……さっきニュースで出てきた ファルコンマスクの談話にあったんだぜ! |
名雲光 |
意識戻ったんだ!マジヤベー! 不死身の男じゃん! |
酉原剛 |
仇討ちが終わったら、会いに行くぜ! 俺様はそこで……。 |
酉原剛 |
……なにを言おう? |
手下 |
モジモジ~! 特設リングの用意を急ぐモジ~! |
---|---|
村雨礼司 |
なんだ? なにかの機材を抱えた手下が走っていったな。 |
皆野祐樹 |
特設リングって言ってたけど……。 |
村雨礼司 |
超人プロレスでもやるつもりなのか? 笑えないな。 |
名雲光 |
え、なんで? マジで楽しみなんですけど! |
酉原剛 |
シャモジンの野郎……許せねーが、わかってるな! これこそ決着の場だぜ! |
皆野祐樹 |
なにか狙いがありそうだけど……。 あと、シャモジンに有利なルールとか。 |
酉原剛 |
ファルコンマスクを倒したときみたいに エンターテイメントにする気なら、それはないぜ。 |
酉原剛 |
どっちかが必ず勝つ勝負なんて、誰も見ねえよ。 |
村雨礼司 |
そういうものか? |
酉原剛 |
お前は本当にわかってねーよな。 |
ウサタロー |
じゃあ、手下を倒しながら進んで、 屋上とか、広い部屋なんかに出ると……。 |
ウサタロー |
シャモジンが最後の戦いを挑んでくるわけか。 |
森沢江湖 |
正統派の怪人って感じだね~。 |
村雨礼司 |
のんきだな。 俺たちはそこまでに相当な消耗を強いられる。 |
村雨礼司 |
どこかでショートカットを探したり、 安全地帯で回復するべきだろう。 |
酉原剛 |
ダメだな。 |
村雨礼司 |
……なぜだ? |
酉原剛 |
これはプロレスだからだ。 観客がいるからだ。 |
酉原剛 |
頭の悪い俺様だけどよー、ようやく飲み込めてきたぜ。 |
酉原剛 |
ファルコンマスクを再起不能にしたときからそうだ。 シャモジンの野郎、俺様たちに……。 |
酉原剛 |
ヒーロー学園に、プロレスを挑んでいやがる。 プロレスで勝つつもりなんだ。 |
村雨礼司 |
さっぱりわからない……。 |
酉原剛 |
いいんだよ。 礼司はそれでいい。 |
村雨礼司 |
どうして……。 |
酉原剛 |
プロレスで俺様が負けるわけねーからだ! |
村雨礼司 |
……くっ、やはりわからない! セクレト!どういうことなんだ! |
セクレト |
ファルコンマスクは、超人能力を失いつつも ヒーローとその理念を体現した存在だった。 |
セクレト |
それを倒したシャモジンが、 仇討ちにやってきた「本物」のヒーローをも倒す。 |
セクレト |
全世界の観客の前でな……。 ショーなんだよ、これは。 |
酉原剛 |
そして、俺様たちがそれをブチ壊すのさ。 シャモジンから主役の座を奪い取って…… |
酉原剛 |
強いヒーローは健在だと、世界に見せてやる! |
皆野祐樹 |
おお……。 |
酉原剛 |
なんかスッキリしたぜ。 怪人退治、張り切っていくぜ! |
---|---|
皆野祐樹 |
うん。 |
村雨礼司 |
……お前たちは強いな。 |
ウサタロー |
なんだよ村雨、急に。 |
村雨礼司 |
規律に従って戦う。 それが正義だと信じてきた。 |
名雲光 |
別にいーじゃん、それで。 |
村雨礼司 |
だが、自分の心に従うお前たちは 恐ろしいスピードで強くなっている。 |
村雨礼司 |
怪人たちの狙いからも明らかだ。 俺は……。 |
森沢江湖 |
ええ~、村雨くんはすごく強いし、頼りになってるよ? |
村雨礼司 |
……まあ、そうなんだが。 |
セクレト |
いまは自省の時じゃない。 来るぞ。奴らが。 |
手下 |
モジモジモジ……。 よくここまで来たモジ~。 |
---|---|
酉原剛 |
なんだ、また手下か。 シャモジンはどこだよ? |
手下 |
シャモジン様に会うためには、 僕ら「四天王」を倒す必要があるモジ! |
ウサタロー |
そ、そう来たか! |
名雲光 |
さっき「中ボス」は倒したけど……。 |
手下 |
四天王は中ボスより強いモジ。 僕は四天王の一人、電子モジモジ! |
手下 |
そして、サイバーフォックス! 僕はお前にハッキング勝負を挑むモジ! |
名雲光 |
え、ええ? |
村雨礼司 |
ふん、こうやって一人ずつ 自信の源を折ろうというわけか。 |
手下 |
当然、勝負拒否はこっちの勝ちだモジ~! |
名雲光 |
しょーがないなー。 いいよ。やろやろ~。 |
名雲光 |
で、どんな勝負? ちょっとマジでやっちゃうよ? |
手下 |
ここに…… CIAから盗んできたハードドライブがあるモジ! |
ウサタロー |
なんだと!? |
手下 |
ふっふっふ。コピーして二台にしてあるけど、 まだプロテクトを割っていないモジ。 |
手下 |
これをどちらが先に割れるかで勝負モジ! |
名雲光 |
いいよ~。 |
村雨礼司 |
お、おい。大丈夫なのか? |
名雲光 |
内容を公表するわけじゃないし、いいでしょ別に。 ポンキューちゃん召喚~! |
手下 |
うおおおおおおッ! |
皆野祐樹 |
電子モジモジさん、すごいタイピング速度だ! |
手下 |
カチャカチャカチャターン! カチャカチャターン! |
皆野祐樹 |
リターンキーの音もすごい! |
森沢江湖 |
暗い画面に、すごい勢いで緑の文字が。 これが、ハッキング……! |
手下 |
よーし。もう少しだ。 いい子だ……このまま……! |
酉原剛 |
なんか画面に進む棒が出てるぜ。 すごい勢いで80%まで来た。 |
ウサタロー |
名雲は……ネイルの手入れしてるだけじゃねーか! 勝てるのか!? |
名雲光 |
あーそれ、90%からすごく遅くなるから大丈夫。 そんで、ウチは作業終了ね~。 |
手下 |
なん……だと……? |
名雲光 |
コマンドプロンプトでなにしてたの? その場でプログラム書いてたわけ? |
手下 |
うっ……。 説明はできない……。 |
名雲光 |
さーて中身は……うわー人事書類か。 マジ退屈。消そ消そ。 |
皆野祐樹 |
な、名雲さんの勝ち? |
名雲光 |
まーね。 みんなハッキング演出にビビってて、ウケたわー。 |
ウサタロー |
……うおおおおおッ! 名雲!俺はお前を信じてたぞー! |
手下 |
く、くそッ! こうなったら戦うしかない! |
酉原剛 |
結局それかよ。わかりやすくて好きだけどな! |
手下 |
電子モジモジを倒したようだな。モジ。 だが、奴は僕らのなかでは一番の小物……。 |
---|---|
皆野祐樹 |
あの、なにモジモジさんですか? |
手下 |
僕は四天王の一人、サッカーモジモジだ! |
村雨礼司 |
……つまり、俺の相手か。 |
森沢江湖 |
あ、村雨くん、ちょっと乗り気だ。 いいよねー、こういうの。 |
村雨礼司 |
さっさと終わらせたいだけだ。 で、どうやって勝負する? |
ウサタロー |
危険だぜ……。 |
ウサタロー |
村雨にサッカーで挑むなんて、 よほどの自信だ。油断するなよ。 |
村雨礼司 |
俺は、幼稚園児が相手でも サッカーで手を抜いたりはしない。 |
名雲光 |
それはそれで、ひどくね? |
村雨礼司 |
勝利を目指すのがルールだ。 |
手下 |
ストライカーよ! 僕とPKで勝負だ!先に外したほうが負けるモジ! |
皆野祐樹 |
まっすぐすぎる……! |
酉原剛 |
サッカーモジモジ、勝算あんのか? |
手下 |
僕は無数に生み出された手下のなかの変異体だ。 キック力は鋼鉄の壁を破るほどモジ! |
森沢江湖 |
そんな……! |
ウサタロー |
あいつのシュートを止めたら、村雨が死ぬ……? |
皆野祐樹 |
ま、まさか、ねえ? |
村雨礼司 |
ごたくはいい。ゴールラインを書いたぞ。 この枠のなかに当ててみろ。 |
村雨礼司 |
俺の腕を抜けられるものならな……! |
皆野祐樹 |
村雨くん……すごいプレッシャーが出てる。 でも、楽しそう。 |
酉原剛 |
あいつ、ゴールキーパーやったことあるのか? |
名雲光 |
ん?公式試合では記録ないよ? ウケる。 |
森沢江湖 |
だ、ダメじゃない! |
手下 |
モジモジ……食らえ殺人シュート! アイアンブレイカー! |
酉原剛 |
いった!あれはマジなやつだぞ! |
皆野祐樹 |
すごい水蒸気で……なにも見えない! |
酉原剛 |
どうなった……おい! 礼司が、ボールを獲ってるぞ! |
手下 |
なにィ!?ふ、不可能だモジ! |
村雨礼司 |
お前がまともにPKをやっていれば勝てたかもな。 だが、俺を狙ってくることはわかっていた。 |
村雨礼司 |
だから水の壁を立てたのさ。 衝撃は残らずそれに吸収された。 |
村雨礼司 |
残ったのは、こっちに飛んでくるヘボシュートだけだ。 |
名雲光 |
お、おお~。 イケメンがマジでイケメンしてる。 |
皆野祐樹 |
かっこいい……! |
村雨礼司 |
さて、攻守交代だ。 お前は俺のシュートの前に立てるのか? |
手下 |
く、くっそおおお!モジモジモジモジ! こうなったら暴力に訴えるしか! |
村雨礼司 |
そうだ。そのほうがお前たちらしいぞ! |
皆野祐樹 |
あのさあ。 |
---|---|
酉原剛 |
どうした祐樹。 また元気ねえな。 |
皆野祐樹 |
いや、考えてたんだよね。 僕と戦う四天王、いそうじゃない? |
ウサタロー |
それはもう、いるだろ! 燃えるよな! |
皆野祐樹 |
なにモジモジなんだろう。 |
森沢江湖 |
元気モジモジとか……勇気モジモジとか……。 |
皆野祐樹 |
そのあたりが、どうも気になっちゃってさ。 対策を立てられたらなー、って。 |
手下 |
その心配は、僕を倒したあとにすることモジ! |
皆野祐樹 |
で、出た! |
酉原剛 |
んー、勝負は俺か? ウサタローか? |
手下 |
僕は四天王の一人、医者モジモジ! ファーストエイドより回復力がある! |
名雲光 |
マジで。 |
森沢江湖 |
すごいじゃない! ヒーローになりません? |
手下 |
怪我を治すほうじゃなくて、心のケアのほうだモジ。 |
森沢江湖 |
それもすごいですよ! |
酉原剛 |
お前と江湖が勝負するのか? 回復勝負だと、お前、勝てないぞ。 |
手下 |
えー、そこに憧れのレスラーを再起不能にされて 心が荒んでいる若者がいるモジ? |
手下 |
治療を試みて、より心痛を和らげたほうが勝ちモジ。 |
皆野祐樹 |
君の専門分野じゃないか……! |
酉原剛 |
でも、対象が俺様でいいのか? 江湖を勝たせちゃうぞ? |
手下 |
この勝負も配信されていることを 忘れているようモジね? |
手下 |
せいぜい観客が納得するようにするモジ。 |
酉原剛 |
くっ……すまねえ。 俺様は、公平にやるしかなくなっちまった……。 |
森沢江湖 |
いいのよ。 私、がんばるから! |
手下 |
じゃあ、先攻はこっちモジ。 エンゲルマスク君。 |
酉原剛 |
おう。 |
手下 |
ファルコンマスクが再起不能になったことで、 レスラーキャラの超人能力者最強は君になったモジ。 |
酉原剛 |
あー……そうかよ……。 |
手下 |
だから悲しむことなく、この世の春を……。 |
酉原剛 |
エンゲルチョップ! |
手下 |
ぐはあ! |
酉原剛 |
お前、悪い奴だろ! 俺様は悪い奴じゃないんでね!0点だ! |
手下 |
こんな奴に0点をつけられるとは……! しかし、ファーストエイドも、なにもできまいモジ! |
森沢江湖 |
うん。私ね、酉原くんの悲しさを、 全部わかってあげることはできないの。 |
森沢江湖 |
私にできるのは、抱きしめることくらい。 ほら、こっち来て。 |
酉原剛 |
お、おう。 |
酉原剛 |
……なんだ、これ……。 |
森沢江湖 |
……辛かったよね。 |
酉原剛 |
うおおお! 江湖の勝ち!圧倒的勝ち!やわらか! |
皆野祐樹 |
いいなー。 |
手下 |
観客がそんな……ええ?支持されてるモジ!? こうなったら、拳で勝負モジ! |
森沢江湖 |
ええ~、どうしてそうなるの!? |
ウサタロー |
そろそろ来るぜッ。 最後の四天王が! |
---|---|
皆野祐樹 |
順番的に、たぶん僕だよねえ? |
酉原剛 |
俺様はシャモジン戦があるからな。 頼んだぜ! |
皆野祐樹 |
どんな勝負になるんだろう。 |
手下 |
知りたければ教えてやるモジ。 僕は最後の四天王、ダメ出しモジモジ! |
森沢江湖 |
う、うん。 |
手下 |
感情を爆発させて、 すさまじい能力を発揮するライオンハート……。 |
手下 |
お前を落ち込ませるために訓練を積んだモジ! |
皆野祐樹 |
うわー、僕が苦手そうなのが来た~! |
村雨礼司 |
なにか言う前に叩きのめしてしまえ。 |
酉原剛 |
そういうのは、今回はダメなんだって 何回言えばわかるんだよ……。 |
手下 |
勝負は簡単。ライオンハートが僕のダメ出しに耐える。 それで力を発揮できたら勝ちモジ。 |
手下 |
僕を倒せば、シャモジン様のいる場所への 道が開かれるモジ。 |
皆野祐樹 |
そんなあ……! |
森沢江湖 |
頑張って、祐樹くん! |
ウサタロー |
皆野なら、どんなダメ出しにでも耐えられるぜ! |
皆野祐樹 |
や、やってみるよ! さあこい! |
手下 |
お前、ヒーローなんかになって…… 親御さんの気持ちとか考えたことあるモジ? |
皆野祐樹 |
ぐはあ! |
手下 |
大怪我しないかとか、死なないかとか 昼も夜もずっと心配してるモジよ? |
皆野祐樹 |
うう、ううううう……。 |
ウサタロー |
もう膝がガクガクだ! |
名雲光 |
まさかいきなり親のことを持ち出すとはね。 ヤバいよ、この展開。 |
手下 |
ちなみに心労と健康には密接な相関関係があるモジ。 このグラフを……。 |
皆野祐樹 |
お、お父さんもお母さんも、 僕を笑って送り出してくれた! |
皆野祐樹 |
心配はしてるだろうけど、応援してくれてるんだ! |
手下 |
ええ~、それって子供の夢を壊さないために 無理してるモジ? |
皆野祐樹 |
怪我だって、ちょっとズルいけど…… 森沢さんがいるから大丈夫だ。 |
手下 |
むっ……。 確かに。 |
酉原剛 |
このくらいで祐樹の心を折ろうなんて、 お前、見通しが甘かったな。 |
皆野祐樹 |
僕に期待してくれてる人がいる! 助けたい友達だっているんだ! |
皆野祐樹 |
だから、だから負けないぞ! 僕は勝つ! |
ウサタロー |
よく言ったぞ皆野ォ! オイラも皆野に期待してるんだぜ! |
手下 |
その感情が本物かどうか…… 戦って確かめる必要があるモジね! |
皆野祐樹 |
怖いけど、悲しいけど…… ヒーローを守るために、やるしかない! |
シャモジン |
よく来たわね!ここが決戦のリングよォ! |
---|---|
酉原剛 |
ようやくお出ましか! 怪人のくせに盛り上げやがって! |
セクレト |
カメラだらけだ……。 観客……というか、視聴者数もかなり増えているぞ。 |
名雲光 |
あんたも「組織」なわけ? |
シャモジン |
そう。人類の偽りの希望、ヒーローをすべて倒す。 そして、よりよい世界を作るのよ! |
シャモジン |
観衆の目の前で無様な姿を晒すがいいわァ! |
村雨礼司 |
おふざけは終わりだ。 倒すぞ。 |
名雲光 |
やっちゃえ、トリ頭! |
酉原剛 |
……ファルコンマスクの仇だ! |
シャモジン |
ラウンド1! |
---|---|
ウサタロー |
ウオオオーッ! ウサギラリアット! |
シャモジン |
……いきなりなに?この子。 弱いんだけど。 |
ウサタロー |
知ってるさ!でも戦うんだ! |
酉原剛 |
いや、あいつは強すぎる。 ここは俺様たちにまかせろ。 |
ウサタロー |
くっ……! |
シャモジン |
あ~ら~、エンゲルマスクちゃん。 ずいぶん真剣な顔ねェ? |
シャモジン |
怖いわァ。 怖すぎて殺しちゃうかも。 |
皆野祐樹 |
……捕らえるように命令されているのに、ですか? |
シャモジン |
さすがに、わかってるわねェ。 |
シャモジン |
まあ、今回は別に捕らえなくてもいーのよ。 倒せ、しかし殺すな、だったかしら? |
手下 |
イエス!モジモジ! |
シャモジン |
手が滑っちゃうかもしれないから、 あまり期待しないでねェん。 |
名雲光 |
……ふ~。安心した。 マジで助かるわー。 |
シャモジン |
なにを言ってるのかしら、 この下品な感じのコは? |
名雲光 |
たぶんさー、学園のなかに 「組織」の協力者がいるのね? |
シャモジン |
あらあら、それはどうかしら? |
名雲光 |
でも、いまので…… 少なくともウチらの誰かじゃないことはわかった。 |
名雲光 |
殺していいわけないからさ。 いやー、ありがとね! |
シャモジン |
あらあら……。 |
村雨礼司 |
本当によく喋るよな、お前らは。 俺は、戦う前の会話には否定的だが……。 |
村雨礼司 |
こういうことがあるなら、話は別だ。 さあ、組織とやらの全貌を吐け。 |
セクレト |
村雨少年。 その繋ぎでは、よほどのマヌケでなければ……。 |
シャモジン |
教えてあげられることもあるわよ? |
皆野祐樹 |
ええっ!? |
村雨礼司 |
(助かった!) |
シャモジン |
あの人のことは、正直理解できているとは言えないわ。 |
シャモジン |
でも、超人能力者から「ヒーロー」と「怪人」という 区切りをなくそうとしていることは確かね。 |
シャモジン |
おそらく、ヒーローをすべて倒して、怪人だけを残す。 警察も軍隊も敵わない私たちの、力の支配が始まる。 |
シャモジン |
そのために、特殊な超人能力者を誘拐したり データを取ったりしているわけよ。 |
ウサタロー |
「あの人」って誰だ!? |
シャモジン |
組織のボスよ。 先に言っとくけど、正体は知らないから。 |
皆野祐樹 |
そんなフワっとした状態で組織に入って 本当に大丈夫なんですか? |
シャモジン |
私は強いから大丈夫。 こっち側に来るなら、今のうちよ? |
村雨礼司 |
誰が行くものか! |
酉原剛 |
つまり、そんなくだらん目的のために お前はファルコンマスクを再起不能にしたんだな? |
---|---|
シャモジン |
そうよ~。シンボルを倒すと、 ヒーローを諦める人も多くなるからねェ。 |
シャモジン |
頑張っちゃってるヒーローもどきとか? 超エリート校のヒーローちゃんたちとかねェ。 |
酉原剛 |
ふううう……。 |
村雨礼司 |
酉原……。 |
酉原剛 |
大丈夫だ礼司。俺様は冷静だ。 怒りが、静かに俺様のなかで燃えている。 |
ウサタロー |
酉原、お前、ちょっと変わったな! いい感じだぞッ。 |
酉原剛 |
怪人シャモジン。お前は……ヒーローの象徴を倒せば、 みなが諦めると言った。 |
酉原剛 |
それは間違いだと、この俺様が証明する。 |
森沢江湖 |
さっき食べてたエナジーバーが いま効いてるみたい。 |
皆野祐樹 |
筋肉が膨れあがってるだけじゃないね。 締まって……キレてる。 |
酉原剛 |
俺様は決して、戦いを諦めない。 |
酉原剛 |
子供たちを守るものは、無敵だ。 |
酉原剛 |
組織だかなんだか知らないけどよぉ。 お前たちがどこに隠れようと……。 |
酉原剛 |
正義の翼は、必ず舞い降りる! |
ウサタロー |
ウオオオオーッ! 酉原ァー! |
酉原剛 |
俺様はファルコンマスクの意志を継ぐ者! エンゲルマスクだ! |
酉原剛 |
俺様が倒されたって、ダチが戦う! みんな倒されたって、必ず次の正義の翼が現れる! |
酉原剛 |
ファルコンマスクは! 正義は!不滅なんだ! |
名雲光 |
ヤバい。 トリ頭が、今日はかっこいいわ。 |
森沢江湖 |
ネットの反応はどうかな? 今のいけたよね? |
名雲光 |
チェックするわー。 お、おお~、ヤバい! |
皆野祐樹 |
どうヤバいの? |
名雲光 |
「二代目登場」「二代目爆誕」「体型変わりすぎ」 みたいな反応があふれてるわ。あと……。 |
村雨礼司 |
最後のはどうでもいいな。 |
名雲光 |
おーい、トリ頭? |
酉原剛 |
なんだよ、キメたところなのに。 背後に花火も飛ばしたかったぜ。 |
名雲光 |
「オレもやるぜ」って人、いっぱいいるよ! |
酉原剛 |
……おお! |
シャモジン |
あらあら。 民衆は煽りに弱いわねェ。 |
シャモジン |
がっかりさせちゃうわよ? |
酉原剛 |
そいつはどうかな! |
ウサタロー |
いくぜ! ラウンド2だ! |
酉原剛 |
さあ、続けてラウンド3いくぜ? |
---|---|
シャモジン |
やだもー、ちょっと待って? 私が負けちゃいそうじゃないの。 |
シャモジン |
流れ的に。 |
森沢江湖 |
(流れってなんだろう?) |
シャモジン |
ここは緊急脱出装置を使わせてもらうわよ。 本気で勝負してもらえるとでも思ったの? |
酉原剛 |
あ? |
シャモジン |
私としては、威厳を保って退場できればいいのよねェ。 エンゲルマスクの仇討ちを失敗にしてね! |
村雨礼司 |
なんだ?リングポストが光って……。 |
ウサタロー |
これは! |
名雲光 |
転送装置!? |
シャモジン |
さようならァ、エンゲルマスク! そして、ヒーロー学園のおチビちゃんたち! |
シャモジン |
怪人に逆らうなんて無駄なのよォ。 今度は一人ずつ狙って、じっくり殺してあげるわね! |
村雨礼司 |
くそっ、ここまで来て。 止める方法はないのか? |
名雲光 |
転送装置の仕組みなんてわかんねーし! |
シャモジン |
ホホホホホ! ホホホホホホ……! |
皆野祐樹 |
……あれ? 逃げるのでは? |
シャモジン |
ホホホ? ……ちょっと待ってちょうだい。 |
シャモジン |
転送装置の調整は誰がやってるのォ!? |
手下 |
電子モジモジです! |
シャモジン |
リングへの固定も全然ダメじゃないの! この作業の責任者は!? |
手下 |
サッカーモジモジです! |
村雨礼司 |
おい。 そいつらなら、倒したぞ。 |
シャモジン |
なんですって!? 電力も足りてないわ! |
手下 |
あーそれ、ダメ出しモジモジの担当ですモジ。 |
森沢江湖 |
医者モジモジさんは、なにしてたのかなー。 |
名雲光 |
手下をうまく使えてないよね。 役割かぶらせちゃって、どっちも失敗とかマジウケる。 |
シャモジン |
うっさいわね! |
名雲光 |
無理すんなよ~。 あまり偉くなったことないっしょ? |
シャモジン |
キー! こうなったら、本意じゃないけど頑張って皆殺しよォ! |
シャモジン |
本気を出したら殺っちゃうから我慢してたのに! 後悔するわよ! |
酉原剛 |
えっと。 祐樹、いまどうなってるんだ? |
皆野祐樹 |
シャモジンさんが逃げるのに失敗したところだよ。 |
酉原剛 |
お、じゃあ倒せるな! 倒していいよな? |
皆野祐樹 |
今回は止めないよ。ただ……。 |
ウサタロー |
やりすぎ禁止、だぜ! |
酉原剛 |
向こうはOKなのに、こっちはダメなのが ヒーローのつらいところだな! |
酉原剛 |
ま、とにかく…… 覚悟、しやがれ! |
シャモジン |
ナァによゥ! ヒーローなんてみんな死ねばいいんだわ! |
ウサタロー |
学園の転送装置は、帰りは使えないのが不便だな! 皆野、交通費足りてるか? |
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皆野祐樹 |
えーと、新幹線、使う? そのへんで足りるか足りないか決まるんだけど……。 |
村雨礼司 |
なんだ、手持ちがないのか。 俺が貸そう。 |
ウサタロー |
あとで学園から支給されるけど、 財布が空のヒーローは悲しいぜッ! |
皆野祐樹 |
ウサタローは荷物扱いだから気楽だよね……。 |
名雲光 |
月に何度も出動があるとキツいよね。 えーと……。 |
村雨礼司 |
名雲。 ダメだ。 |
名雲光 |
まだ、なにするか言ってないよ!? |
村雨礼司 |
ダメだ。 |
森沢江湖 |
帰り道は酉原くんが帰ってきてから決めようよ。 ……あ、来た来た。 |
酉原剛 |
……。 |
皆野祐樹 |
ぼんやりしてるね? |
ウサタロー |
酉原、大丈夫か? ファルコンマスク、調子悪そうだったのか? |
酉原剛 |
ああ、いや、元気そうだった。 病院の人も俺様たちのこと知ってたし。 |
村雨礼司 |
どうしたんだ、お前。 なにか失礼なことでもしたのか? |
名雲光 |
ちょっとー。 |
酉原剛 |
……これな。 くれた。 |
村雨礼司 |
ん?服か? |
名雲光 |
あ、ああー! マスク! |
皆野祐樹 |
まさか、ファルコンマスクの!? |
酉原剛 |
ああ。俺様のこと、覚えててくれたんだ。 何年も前の、沢山いたファンの一人でしかねーのに。 |
酉原剛 |
それで、これをくれてさ。 頼む、って。 |
ウサタロー |
……それって、二代目ってことか!? |
名雲光 |
そーだよ。そーだよ! ちょ、マジでヤバい。 |
酉原剛 |
そういうこと、だよな? |
皆野祐樹 |
うん……うん! すごいよ、酉原くん! |
森沢江湖 |
あこがれの人に、未来を託されたんだね! |
酉原剛 |
あー、やっぱなあ!挑戦状じゃなくてよかったぜ。 戦えそうだったもんよ、あの人。 |
名雲光 |
トリ頭はトリ頭のままかよ……。 ねね、今のうちにサインちょーだい。 |
酉原剛 |
やんねーよ!それに、これをつけるのはまだだ。 |
村雨礼司 |
酉原がエンゲルマスクじゃなくなったとき、だな。 |
酉原剛 |
お、礼司もわかったのか。 教育の成果が出たな! |
村雨礼司 |
さすがに、な。 |
森沢江湖 |
それで、酉原くんはファルコンマスクに なんて伝えたの? |
酉原剛 |
なんの話だ? |
森沢江湖 |
お見舞いでなにか言うって、言ってたじゃない。 患者さんにはそういうの、けっこう大事なんだよ。 |
酉原剛 |
あー、あれなー。 うーん。 |
皆野祐樹 |
僕も知りたいな。 よかったら教えてよ。 |
酉原剛 |
ありがとう、って言ったよ。 それしか思いつかなくてよー。 |
酉原剛 |
もうちょっと頭が良かったら、 気の利いたこと言えたかな。 |
皆野祐樹 |
……そんなことないさ。 僕は、それが最高だったと思うよ。 |