八神チーム プロローグ
静寂。満月はひと際赤く染まり、立ち並んだ墓標を鮮血色に照らし出す。
共同墓地の目立たない区画にぽつりと立った小さな墓には、
燃え尽き灰となった煙草が一本横向きに置かれていた。
真紅の髪の男が、その煙草の残骸を見つめながらもの思いにふけっていた。
「フン……。線香のつもりか。」
口の中でぼそりとつぶやき、傍らに植えられた楡の木へと視線を移す。
彼が視線を向けると、枝に止まっていたカラス達が一斉に飛び立った。
いつからだろうか……月光に照らされた幹から伸びる影のあたりに、
男を見つめる2つの気配があった。
「久しぶりね、八神庵。良い悪夢は見られたかしら。」
妙になまめかしい女の声がした。確かに気配は感じるのだが、姿は見えない。
「死にぞこないが地獄の底からなんのようだ?」
「つれないねぇ。あんたが恋しくなったから、会いに来てやったんだ。
嬉しいだろ?」
先ほどとは違う女の声が答えた。
「くだらん……。失せろ。」
言い放つと同時に庵の右手が紫炎に包まれ、空間に歪みが生じた。
そのまま虫を払うかのように腕を薙ぐと、気配に向かって炎が走る。
気配の源へと到達するその刹那、彼の放った炎が突然弾けて霧散した。
「フフフ……。手荒い歓迎だこと。
私達が現れた本当の理由……。あなたも薄々気付いているわよね。」
紫炎が霧散したその向こう、2人の美女の姿があった。
マチュアとバイス。
かつてのチームメイトであり、庵自身が手をかけた女達の姿であった。
バイスの手から封筒が投げつけられる。
今更中身を確認するまでもない、見知った封筒……KOFの招待状であった。
「クックック……。今回のKOFは悪夢の始まり。生命の色香に引き寄せられ、亡者共が群がる。
私にはその声がよぉーーく聞こえるんだよォ、八神! ……あの時、力を手放して“人”として生きていれば貴様も悪夢から覚められたのになァ!」
夜気を震わせてバイスの声が響いた。
「あなたの悲願が遂げられる日もそう遠くないうちにくるかもしれないわね。
まぁ、それまでに八神……。あなたが死ななければの話だけどね。」
マチュアの予言めいた言葉に庵は興味なさげに鼻を鳴らす。
「フン……。“奴”を殺る前に俺がくたばることなどありえん。」
「そう、なら楽しみね……。取り戻した力、見届けさせて貰うわ。
私達を失望させないでね。」
「ほぅ……。そんなに興味があるなら今から見せてやろうか?
見物料は貴様らの魂になるがな。」
庵の目付きが険しくなり、禍々しい気が彼の周囲に広がる。
「フフフ……。遠慮しておくわ、まだ地獄に帰るには早いから」
「ククク……。じゃあな八神……。また会おう、悪夢の入り口でな!」
女達はそう言い残すと、再び暗闇へと消えた。
庵は踵を返すと、月の光を背に浴び歩き出した。
血を求めるがごとく、爛々と赤く輝く月であった。
「……奴をこの手で殺す以外、悪夢から目覚める方法などない。」
彼はただ、“草薙京”という男との闘いを求める。
なぜなら、それは彼にとって唯一の、己の生を証明する方法なのだから。
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