中国チーム プロローグ
険しい峰が連なる山々は今日も深い霧で囲まれており、山頂部分だけが顔を出す。
その雄大な自然に溶け込むように焼けこげた跡の残る道場が山頂に聳え立ち、中からは少年の発するすさまじい破壊音と気合いに満ちた咆哮が木霊する。
「ふぅ……。この力にも慣れてきたな。」
「そうだよね。昔のシュンちゃんなら本気になるたび、道場を壊してたもんね。
あの頃は大変だったよ、僕と師匠でシュンちゃん止めるの。」
「いつの話だよ。それは俺が子供の頃の話しだろ。」
「だからこそ、成長したなって思って。」
「あぁ……。確かにあの頃と比べると成長した。
だが、それじゃ駄目なんだ。完全に制御できるようにならないと……。」
「ほっほほ……。励んでおるのう、焦りは禁物じゃぞ。
それだけ努力をしておれば、いつかは報われよう。」
「いつかじゃ遅いんだ、じいさん。俺はもう誰も傷つけたくない。
だからこそ、この力と向き合うことを決意して今まで努力してきたんだからな。」
「シュンちゃん……」
少年達の顔には陰りが見え、心が霧に覆われているように見て取れた。
その様子を見かねたタンは顎に手を当て一時の間思案し、とある提案を口にした。
「ふむ、ちと荒療治じゃが……。良い方法がある。」
「それは本当か!教えてくれ、じいさん!どんな厳しいことだってやってみせる!!」
「うむ。それはのぅ……。KOFに出場することじゃ。」
「KOF?」
「シュンちゃん知らないの?
世界規模の格闘大会で、優勝チームには莫大な賞金と格闘家として最大級の栄誉が与えられるんだよ。」
「そんなことは俺でも知っているさ、明天。
俺はただ格闘大会に出場したからって、何か意味があるのかなって思ってさ。」
「確かにね。ただ強い格闘家と戦うだけなら師匠だけでいいもんね。」
「それに加減のできない俺が出場したら、相手に大怪我をさせてしまう。」
シュンエイは自身の力の危険性と不安定さを理解している。
だからこそ、ある程度力を使いこなせるようになった今でも、人に対して己の力を使うことに抵抗と不安を抱いてしまう。
タンはそんなシュンエイの不安を見透かし、一蹴するかのように言い放つ。
「馬鹿もん、一流の格闘家を舐めるでない。
今のお主たちでは傷をつけることも難しかろうて。」
「えー。そんなに強い人いるの?」
「うむ。それに弟子達や草薙京もでると聞いておる。」
「草薙……京?」
「そうじゃ、草薙一族には代々祓う力がある。
草薙京はその継承者でかつて巨大な力を封じたこともある。
それに、大会出場者の中にはお主のような境遇の者もおる。戦いの中でなにか得られるかもしれんぞ。」
「ふーん、だからKOFに出場して戦えってことか。
でもシュンちゃんならその草薙って人にも楽勝しちゃいそうだね。」
「いや、油断は禁物だ、明天。
それに、じいさんの弟子として兄弟子たちにみっともないところは見せられないからな。そうとなれば修行だ、明天!」
「えー! お昼寝しようと思ってたのにー。」
「さっき起きたばかりだろ、ほら組手をするぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってよーーーー。」
最後の弟子にあたる少年達の喧騒を聞きながら、タンは思いに耽る。
近頃、僅かではあるがシュンエイと似たような気を感じる。
陽が力を増せば陰も増す。陽がさらに強さを増せば……
吉とでるか凶とでるか、願わくば日輪が霧を照らさんことを祈って。
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